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【2026/04/05 05:46 】 |
井上×木戸
常に不健全・不謹慎な話ばかり書いているせいで、
よくその手の警告を書くのを忘れている拙ブログであります。
心の準備のないままにうっかり読んでしまわれた方、
まことに申し訳ありません。

今回もいつものようなアレでソレな話です。
心がそっちのベクトルに広い大人のおねえさんに向けて
お届けしたいと思います。


以下、よみものでございます。

『余熱』
 彼が東京に帰っているとは聞いていた。だから執務室に顔を出した井上を見たとき、木戸はああ、来たのか、と思っただけで、格別の感慨はないつもりだった。井上の挨拶をうけて、うん、とか、ああ、とか何とか、とにかく言うつもりだった。それが、一瞬奇妙に間があいた。
 (……あ)
 彼はそれを、咳払いでごまかした。
 喉が急にひりつくようにかわいて、声が出ない。その体の変化の理由に思いあたったとき、
 (馬鹿な)
 木戸はきまりわるさにおもわず手を口にやり、それから自分の動作の不自然さにあらためて気がついて、またすこし咳をすると、手の甲で口を強く拭った。
 「風邪ですか?」
 と井上が問う。
 「いや……」
 ようやく絞りだした声は、我ながら妙に不機嫌そうだった。井上はさして気にするふうでもなく、
 「寒気が去るとかえってやられたりしますからねえ」
 と暢気そうに頷いている。
 「それで、」
 とあまり咳のことにふれられたくない木戸は、さっと話題を転じた。
 「どうだった、横浜は」
 「うーん、まあ、」
 井上は勧めもしないのに、机と向い合せのソファにどっかと腰を下ろした。もとは登城した大名の溜りの間かなにかだった部屋の床は備後表の畳敷で、そこへ洋机やソファを入れた現在のようすはちょっとした奇観なのだが、そのいかにもちぐはぐな調度の上にためらいもなく腰を掛けた姿は、この無軌道な男にはふしぎによく似合った。
 「箱舘はじき陥ちるんだって話は、公使連中をまわってしてきましたがね、そのへんはあちらさんのほうがよっぽど事情通だから、俺が説くまでもないみたいでしたよ。トクガワが勝つんじゃないかとかミカドの政府がひっくり返るんじゃないかとか、そういう疑団はもう大方解けたとみていいでしょう。それよりも、ジョウイはたしかに廃めるんだろうなって、それはもうぎゅうぎゅうと念を押されましたが」
 肘掛けをさすりながら答える。そうか、と木戸はその指先を見つめながら頷いた。
 奥羽を平らげて後は、旧幕府軍の制圧は時間の問題になった。それよりも今後は、外国公使の応接に神経を労さねばならない。新政府の基礎は盤石で、外国との交際にも誠を以てし、須臾も万国公法と国際儀礼にそむくところがない。かれらをしてそう印象せしめねばならない。下手なことを本国政府に吹き込まれては、一朝にして新政権は――皇国の屋台骨は消し飛ぶ。かれら外国公使の恐るべきことは、旗本八万騎や奥羽諸藩の比ではない。
 しかし、それら深刻なはずの思案が、どうも途切れとぎれになる自分の思考のうつろさに、木戸はさっきから気がついていた。そしておそらく、というより今はもうはっきりと、その原因も。
 ソファの肘掛けの上でとんとんと弾んでいる井上の指を見て、木戸は深く溜息をついた。すると井上はそれをどう取ったのか、
 「今日はもうひけたほうがいいんじゃないですか」
 春先の風邪はこじらすと面倒ですよ、と席を立った。つられて立ち上がった木戸を、送ってくれるつもりだとでも思ったのだろう、ああ、いいです、とかるく上げた袖を、木戸は捕らえた。
 「忙しいのか?」
 「今日ですか? 今日は別に……」
 それより木戸さん、駕籠でも呼んだら、と言いかけるのをさえぎって、
 「今日というよりも、今、だ。忙しいのか、今」
 「今……も、別に……」
 「俺は体が悪いんじゃない」
 「はあ」
 つかまれた袖をわずかにたじろぎながら見ているその目の前へ、木戸は一歩顔を近づけて、
 「忙しくないなら」
 と言った。
 「遊んでいかないか?」
 笑ったつもりだったが、どうも剣呑な顔つきをしていたらしい。井上がちょっと身をすくめ、目を見ひらいたのがわかった。
 
 「は……っ、あ、」
 背中に敷いた井上の襦袢がもみくちゃになっている。
 さっきまで書類をひろげていた机の上に寝そべって、向かい合って立った格好の井上を受け容れながら、木戸はその背に思いきり爪を立てた。
 「つ……」
 井上が顔をしかめ、噛み締めた奥歯の隙間から鋭く息を洩らす。彼の眉根に皺をつくっているのは、背中の痛みではないだろう。
 掌につたわる井上の肌は、すこしつめたい。こんな場所で抱き合うときは、いつも服は緩める程度なのだが、今日は木戸が先に全部脱いだ。今日ばかりは、どうしても素肌で抱かれたかった。皮膚のあらゆる場所で井上を感じたかった。井上に脱げとはいわなかったが、木戸が肌を晒すのを見て、彼も黙って衣服を解いた。
 まだいくぶんか寒い部屋の中で、熱を充分に上げられずにいる井上の体がしだいに冷えていくのを、木戸は気の毒に思った。
 「す、まない……」
 ふるえる手で、井上の背をさすってやる。その自分の手はしっとりと汗ばんで、熱い。
 力を抜こうと思うのに、一度綻んだはずの木戸のそこは、押し入ってきた井上をきゅうきゅうと締めつけてしまう。指を挿れられたときから、自分の身体がいつもとちがうと思っていた。待ちかねたように食いつき、悦びをあらわにする。中のどこに触れられても、痺れるような快感が体を貫く。自分は、いいのだが。
 「聞多、」
 引き絞るようにそこを捕らえられている男の、体の辛さがわかる。
 「やっぱり、一回抜……」
 一旦離れたほうがいいだろうと腰を引こうとしたが、井上が腕を掴んでひきとめた。
 「いい、感じてろ」
 かすれた声で囁かれて、内部がまた狭くなる。顔をゆがめながら、井上が笑った。
 「ずいぶん溜まってるみたいだな」
 ぐっと奥を穿たれる。いつもより摩擦が大きい。おもわず声をあげると、しっ、と唇に人差し指を当てられた。
 そのまま井上が動きはじめる。隙間なく密着した内部を余すところなく擦られて、もうどこが悦いのかわからないほどに、全身にたまらない甘い疼きが走る。それでもやはり井上の顔はつらそうで、どうにかその表情を和らげる方法がないかと、朧になりつつある意識の下で考えていると、溜息のような笑い声とともに、掌で目をふさがれた。
 「恥ずかしいだろ」
 あんまりじろじろ見なさんな。減るから。荒い息で、おどけた声を出す。
 今さら、というよりもそもそも井上のような男が恥ずかしいわけがないのは木戸にはよくわかっている。むしろいつもは目をあわせたまま動くのが好きだというくせに。
 「いいからこいつのことだけ考えてな」
 覆いかぶさって胸をつけ、耳を噛みながら、井上がひときわきつく腰をつかった。高くあげそうになった声を、あわてて呑み込む。
 「そうそう、静かに、な」
 低く、官能をゆさぶるその声。
 「ちょっと、急ぐぜ」
 と言ったのは、やはり辛いからなのだろう。
 前を掴まれて扱かれる。その動きにあわせて中を突かれ、弱いところを中心に責められる。
 「ん……っ、く、あ、」
 呑みきれない声が洩れて、それをまずいと思うたびに快感が増す。井上の手がつくった闇のなかで、机の軋む音までが淫欲を煽りたてた。
 「聞多、」
その声まで粘膜の中に溶けて、井上を愛撫しているような気がする。四肢をからめて強くしがみつき、木戸は達した。
 
木戸の体の横に片手をついて、上体を斜めに支えたまま、井上は自分の腹にもう一方の手をやり、木戸が放ったものを指ですくいとった。ぼんやりと木戸が目をあけているのを知っていて、わざと見せつけるように指の間をひらき、糸をひくそれをゆっくりと舌で舐めとる。
「濃いな」
頭がまだぼうっとしていて、何を言う気もおこらない。せわしなく息を入れながら、さっき井上が自分の中から引き抜いたそこが、半分ほどの角度を保ったままであるのを、申し訳ない思いで見つめていた。やはり、苦痛がまさっていけなかったのだろう。
視線に気がついたらしい井上がにっと唇の端で笑い、木戸の髪を撫でる。
「気にするなよ。これで終わりじゃないだろう?」
肩を上下させながら、木戸は頷いた。その唇をかるく吸ってから、
「どうかしたんですか、今日は」
まんざらからかってばかりいるわけでもなさそうに、井上は言った。
「なんだかずいぶん……」
「それは、」
呼吸の合間にようやっと木戸は声を放った。
「この前、おまえが、」
「俺が?」
「お前が……、待て、って、」
「ああ?」
俺が、待てって……? 井上は顎をさすりながら首をひねり、その首を戻して今度はもう一度反対にひねろうとしたとき、
「ああ、俺が? こないだの?」
得心したという顔で、目をまるくして声をあげた。
「お前、忘れてたな……」
「いや、そりゃだって……」
そうでしょうよ、と井上はつぶやく。恨めしげに眼のはしで睨んでやると、どう思ったのか、今度は深く口づけられた。
 
横浜へ出かけるその日も、井上はここへ来た。ひととおりの挨拶が済んだあとで彼は立ち上がり、木戸の袖をとらえて悪戯をはじめたのである。
井上の指づかいは巧みだった。
壁に押しつけた木戸の肌をまさぐり、的確に快感を煽る。はじめは場所柄を憚って及び腰だった木戸の口から抗議の声が消え、その体がやわらかく解けてゆく。たまらなくなって膝から崩れ落ち、自分からねだろうとしたちょうどそのとき、
「ああ、俺もう行かないと」
パチン、と耳許で音がした。井上は片手で木戸を嬲りながら、もう片方の手にたった今蓋を開けたのであろう懐中時計をもっている。
「ほら、もう昼をまわっちまう」
文字盤を見せつけられても、木戸は咄嗟にはわけがわからなかった。
「じゃ、行ってきます。何か御所望の物はおありですか。買ってきますよ」
「そんな……」
土産などどうでもいい。それより今この体をどうにかしてくれなくては。
しかし井上はさっさと手を拭って、衣服の乱れを点検し、ついでに髪までなでつけている。本気でこのまま放っていくつもりらしい。
「聞多……」
唇を噛みながら、腫れ上がって痛いほどの自分のそこへ、無意識に手をやる。と、乱暴にその手首をつかまれた。
「おっと、さわるなよ」
「なっ……」
「このままで、俺が帰るまで待ってな」
ねっとりと舌の音を響かせながら、耳許に囁かれる。きっと睨みつけると憎らしいほど悠揚とした顔で、
「言うこときかないともうしてやんねえぞ」
下腹にこたえるような低い声で脅された。
 
「あのあと、大変だったんだからな……」
上気した顔で、木戸は今ふたたび井上を睨んでいる。
あの日井上が去ったあとも、木戸はしばらく床から立てなかった。高められた体は、解放のときを待っている。自分が身じろぎする、そのわずかな刺激すら辛い。そろそろと深呼吸を繰り返して、熱が引くのを待った。ようやく身を起こせるようになったとき、汗で鬢の毛が貼りついていた。それをかきあげて窓の向こうに見た陽は、いつのまにかすっかり傾いていた。
「……で、それからずっと?」
井上の手がそこにふれる。やわやわとした動きだったが、解放から間もない木戸にはその感触が強すぎるほどで、立てた膝をかたくこわばらせて耐えた。
「お、まえがそうしろって言うから……」
「いや、だけど」
別に俺本気じゃなかったよ、と半ばこまったように言い訳して、井上がそこに口づける。あわてて閉じた口から、それでも悲鳴のような声が洩れた。
「知ってたさ」
井上の髪を指にからませる。
無論あのときも、木戸は井上の言葉を本気でうけとったわけではなかった。もうしない、などと言ったところで、だいたいいつも我慢ができなくなるのは井上のほうではないか。
「知ってはいたんだが、どういうんだろうな」
井上に囁かれて、縛られたように動けなくなった。馬鹿げているとわかっているのに、おとなしく言われたとおりに、井上の帰りを待っていた。こうしてふたたび抱かれることだけを待ちのぞんで。
「なあ、」
と井上が顔をあげた。
「俺もしかして、けっこういいか?」
『いい』の意味を自ら示すように、さっきまで木戸を歓喜させていた場所に指を挿れる。ん、と息を詰め、その刺激にたちまちまた熱が上がるのを感じながら、木戸は苦笑してみせる。
「だからいつもそう言ってるだろう」
聞いてないのかおまえは、と言うと、肩をすくめて井上も笑った。
「聞いてないわけじゃないけど……俺いっつももうとにかくあんたの具合がよくてよくてさ、」
「あ、」
びくんと木戸の体が跳ねた。井上の指が、弱い箇所を狙って責めていく。
「あんたを味わうのに夢中だから、あんたのごにょごにょ言ってる声まで、あんまりよく意味なんざ考えてないのよ」
ああそう、俺いいんだ。井上は顔を寄せ、木戸の額にそっと口づけを落とした。
「じゃあまあ改めて、お待たせしました」
おどけて言うと指を抜き、かわりに自身の硬くなったものをそこに押し当てた。
 
「はぁ、ん、……あぁ、」
一度放ったせいもあって、さっきまでのような凄まじい飢餓感はない。井上にも苦痛は与えていないのだろう、木戸の中でその存在を主張している彼は、滑らかに動いている。が、それだけに木戸の快感はさっきよりもなお深く、自身、底が知れぬように思われた。
繋がっている部分の感覚だけが、脳を支配している。四肢にはもう力が入らなかった。井上の背にまわしている腕が、ずるりと滑り落ちる。そうして爪先がときどき、思い出したようによわよわしく痙攣した。
「大、丈夫か……?」
鼻先がぶつかるほどの近さで、井上が尋ねる。大丈夫かそうでないか、木戸にはもうよくわからない。ただ、熱い吐息を零す井上の唇に吸いよせられるように舌を出し、ゆっくりと舐め上げた。体の奥で井上がさらに怒張する。
「んあ……、」
背がひとりでにしなり、そこがきつく収縮する。痛いのではないかと思ったが、
「ああもう、いいなあんた」
井上は嬉しそうにしている。その言葉の意味すらおぼろげにしか理解できなくなっている木戸は、しかし、つられて微笑んだ。くそ、と井上が吐息だけでつぶやく。頭を抱きかかえられ、痛いほどに頬ずりされた。
快感の波に、脳が砕かれそうになる。押し寄せる感覚のあまりの大きさに、受け容れる器のほうが追いつかない。体の芯からはち切れて、粉々になりそうだった。快楽以外の感覚と機能は体の中で押しやられて行き場を失くし、熱に溶けたそれらの死屍は涙になって、奥を突き上げられるごとにとめどなく溢れ出る。
井上の指が、そっとそれを拭う。ふ、と温かい息が首筋にかかったのは、笑ったのだろうか。
「泣くなよ」
「泣い……、」
泣いているわけじゃないんだ、と言おうとしたが、息がつづかなかった。眼をあけているのに、視界が白くかすんでよく見えない。涙のせいばかりではあるまい。体の中が――繋がっている部分よりももっと深いところが熱く、これほど与えられつづけてもまだもどかしさが止まない。輪郭もゆがんで見えだした井上の肌に、遠い町の灯のように光って見える汗の滴、その滴を砕いて散らしたひとつに自分もなって、深い渓底に吸い込まれていくような気がした。
「…………」
譫言のように、唇がひとりでになにかをつぶやく。自分でも聞き取れなかったし、一体意味のある言葉だったのかどうかわからない。ただそれを聞いた井上が、ひときわ力強く、奥に押し入ってきた。
「あああっ!」
「おっと、」
井上の手が口を塞ぐ。その掌を湿すほどに濡れた息を洩らし、くぐもった声をあげた。
「だから、あんた、」
苦しげな吐息を井上が洩らす。
「締め、すぎだって……、」
「ん……、」
ああ、本当に今日はひどいことをしている、と、焼き切れそうな意識の奥で、木戸は井上の苦痛を思った。無意識に体を離そうとすると、それを留めるように深く穿たれる。
「あ、」
「心配するな。こんなもんじゃ萎えやしねえよ」
低くかすれた井上の声には、蒸れるように雄がにおった。
「好きなだけいかせてやる」
「や、……あ」
片脚を高く抱え上げられ、好きな場所を擦りながら抽き挿しされる。体がびくびくと慄えて、井上の掌の下で細く啼いた。その自分の声が、熱に熟れきった体が爛れおちていく音に聞こえた。
「なあ、自分でわかるか……?」
井上が耳朶を舐めながら、甘くひびわれた、男の声で囁く。
「中がうねってるぜ」
ほら、と揺さぶられても、木戸にはわからない。ただ、中に井上がいる。その熱と充足感に包まれて見上げた井上の顔は、ほの白くぼんやりしていた。が、彼が抱き合っているときにだけ見せる、下腹が疼くような苦みのある表情をぼやけた輪郭の奥にみとめて、その眩しさに眼を細めた。
井上の手が、額に落ちた髪をやさしくかきあげる。濡れた目尻を指で拭われ、息ができないほど深く口づけられた。そのまま奥を目指してきつく腰を使われる。
「ん、んっ、ん……、」
背筋を凄まじい快感の波が駆け上げる。そのまま何かが体を突き抜けて、突き抜けた勢いごと自分も飛び散ってしまいそうだった。恐怖と悦びとかないまざったその感覚を訴えようとするのだが、熱に濡れた口には井上の舌が深く入っていて、どうにもならない。
「――――…………」
最後の声まで貪られて、木戸の意識は白く弾けた。
 
それから、ぼうっと霞のかかった視界に、何度か井上の姿を見た。
起きてそれに気づくたびに、木戸の体の中に甘い痺れが走る。井上は繋がったままぴったりと胸をつけて木戸を抱き、髪に指をからめながら、倦むことを知らないように腰を揺らしつづけていた。
(――あたたかいな)
そう思ってそっと井上の背を撫でると、なんだか怒っているような切ない吐息とともに、きつく抱きしめられた。
 
その交歓が果てたのがいつなのか、木戸は知らない。
目覚めたとき、井上がそうしたのだろう、脚を折り曲げた格好で机の上に丸くなっていた。その体は、抱かれている間じゅう下に敷いていた井上の襦袢にくるまれて、さらに何かかすかな重みが加わろうとするのを見上げると、ちょうど井上が、木戸自身の羽織をかけてくれるところだった。
「……ああ、」
朝ならおはようだが、こういうときの挨拶の言葉を木戸は知らない。なんとなく井上の顔を見て頷くと、井上もまたちょっと首をつきだした。
「起きられますか」
「ん……」
背中が痛い。何より全身がひどくだるかったが、手をついて木戸は上体を起こした。何気なく自分の胸から腹をさぐってみると、そこはきれいに清められていた。やっぱり井上がしてくれたものだろう。
「今、」
何時だろう、といおうとして、咄嗟に息を呑んだ。井上の残滓から、体の中から流れ出るのを感じたのである。
(いったのか……)
とひそかに安堵した。井上にも苦痛ばかりではなかったのだと、その思いにちいさく溜息をつく。そうしてふたたび下肢の感触に唇を噛む。
(あ)
いつもより量が多い気がする。どろりと下りていく感じの気持わるさに、片手で自分の肩を抱いた。
そのようすに気がついた井上が、
「悪い、俺もう途中から……」
自分の肩に爪を立てている木戸の手を剥がし、指をからめた。その指をきゅっと握って、木戸はふるふるとかぶりを振った。途中からわけがわからなくなったのは、むしろ自分のほうだろう。井上がいつ達したのかすら知らない。ただ、注がれたものの多さに、彼が満足したらしいことを察して、そのことが妙に甘苦しく胸を充たした。
「気持ち悪いだろう、それ」
井上が木戸の腰を顎でしゃくる。
「きれいにしてやるから、ちょっと、こう……」
手を引いて、木戸の上体を自分によりかからせようとする。が、井上が斜めに倒そうとしたその体を、木戸は正面からぴったりとつけて、井上の背に腕をまわした。おい、と井上が苦笑する。
「こんなにくっついちゃできねえよ」
そう言いながら、井上の腕は、木戸の体をきつく抱きしめた。襦袢を汚したせいで長着だけをゆるくひっかけている井上の胸に、彼の力強い鼓動を感じながら、木戸はその首筋に顔を埋めてふわりと笑った。
「汗臭い」
「誰のせいだと思ってんだよ」
臭いなら離れるか? と口をとがらせて、そのくせ井上は、腕の力をすこしもゆるめなかった。木戸も、そうだな、と返事をしながら、井上に体をあずけたままでいる。
(もう少し)
と木戸は思った。
奥羽がすでに平らぎ、箱舘も近く片付くとはいえ、鉾を収めればそれで終いという安い仕事ではない。むしろ政府はこれからが多事である。本来ならばこんな場所で抱き合っている場合ではないし、ましていつまでもその余韻を貪る自由は、自分たちにはゆるされていないはずのものだった。考えねばならないこと、しなければならないことが山ほどある。
が、今日こうして誘ったとき、井上はそれをいわなかった。おそらく木戸が言いだすまで、忘れたふりをしているつもりだろう。ならばもうしばらく、抱かれたあとの体をこのぬくもりのなかに置いておきたい。
果てたあとがこうも長く心地よいのは、いつぶりのことだろう。気だるい体を井上の胸に沈めながら、ふと木戸はそのことをつぶやいた。
「うん?」
聞き取れなかったらしい井上が顔を寄せて訊きかえしたが、木戸は眼を閉じ、だまって首を振った。
「なんだよ」
井上の苦笑する声がうなじをくすぐる。そのかすかな振動が、皮膚を透って体の芯までつたわるのを感じながら、
「聞多」
飴玉をころがすように、舌の上でその名を小さく呼んだ。

拍手[26回]

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【2012/04/21 19:04 】 | よみもの
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