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【2026/04/05 00:06 】 |
容堂×木戸
夏でございますね。

今年もわたくしはティトセ基地のコークー祭で焦げました。
2年ぶりにブルー様が飛んだのでえらい人でしてね、
日傘させなんだのでまともに陽を浴びました。
途中で帽子買ってかぶってなかったら参院選直後のどっかの
かんじちょうだか感じちゃうだかみたいになってましたね、きっと。
しかしあの迷彩帽どうすっかな……。
また来年のコークー祭でかぶればいいのかな……。
ちなみにプロ参加者の皆様は帽子、タオル、冷却剤、冷凍飲料、
コールドスプレー、クーラーボックス、ブルーシート持参という
「夏の有明かよ」な装備で来ておられました。
まあコールドスプレーとかはともかく帽子は要るわな。
来年までとっとくか迷彩帽……。

そして大変お待たせしてしまいましたが、どうにか夏のうちに
殿木戸(リクエスト)を書き上げましたので投下しておきます。
汗だくでにゃんにゃんする殿木戸ってこんな感じでいいのかしら。

木戸さんの、木戸さん自身も数え切れないお相手のうちで
いちばんお上手なのが容堂公だと思います。
聞多も器用だろうし大久保さんも多分キメ技もってるけど
容堂様は規格外ですねいろいろと。
木戸さんは毎回もう死ぬかもと思っていればいいよ。


そんなこんなの殿木戸ぽるのです。
やまもおちもいみもまるでないです。


『熔爛』
 黒塗りの箱の蒔絵をしばらくながめていた木戸は、やがてあきらめたようにその蓋を持ちあげたが、やはり絵のように美しく詰められた炒り卵だの干魚だのをちらりと確認すると、いささか辟易の気味でふたたび蓋をおさめた。
 「食わんのか」
 横から広沢が声をかける。そういう彼もおなじく用意された箱弁当を喜んでつつく気にはなれなかったらしく、飯と漬物ばかりを拾いあげては、吸物茶碗に移して勝手に茶漬にして啜っている。
 「どうもこう、酢のにおいばかりでやりきれん」
 鼻の前で掌を動かすと、広沢もうなずいて、
 「この季節だからな」
 と気怠そうに言った。その鬢の横を、汗の滴が太い流れをつくって滑りおちる。
 まったくこの暑さでは、こうして昼飯時に運ばれてくる弁当も、例外なく酢漬か塩物ばかりであった。
 「大将へお目通り待ちの生首じゃあるまいし、そう塩ばかり浴びせられてたまるか」
 昨日だったか、誰かがそんなことを言っていた。木戸はさすがにそこまで大っぴらに食い物の愚痴を言いたてるのは慎んだが、気がついてみればここ最近、昼飯にはあまり箸をつけないことが増えていた。第一この炎暑のなか、ろくに風も吹きとおらない旧(もと)の江戸城内で、生温い飯などもそもそと咀嚼する気にならなかった。朝臣だから、というので着せられているぞろりとした直衣も、箸の動きを重くするように思われた。
 「これは贅費というものじゃないか」
 広沢にだけ聞こえるように、低くささやいた。溜りの間には時分どきをむかえた参与連中が三々五々陣取って、おなじ弁当を抱えている。
 「めいめい蕎麦でも取ったほうがましだろう」
 広沢は茶碗の残りを喉に流し込みながらそれを聞いていたが、やがて、
 「その手の贅費は今後いよいよ増えるだろうさ」
 ひくくつぶやいた。
 「蕎麦屋の岡持が太政官御出入では体裁が悪かろうというんでこうなったんだ。御一新の御威光があまねく及べば、な、」
 そういう虚飾はますます盛んになるだろう。広沢の視線は、重めかしい黒塗りの弁当箱に落ちている。わざわざ料理屋の仕出をとることの無意味さを、諸藩から出た徴士のうち、まともな頭のある者なら誰しも感じているにちがいない。そういうくだらぬ箔づけの積みかさねで政府の外貌をととのえていかねばならぬとすれば、自分たちはなんと心細い場所に身を置いていることかと木戸は思った。
 「それより」
 と、広沢は箸を置いてこちらへ向きなおった。
 「お前は、どうする。残るか」
 俺は一旦出るよ、と言う。よそで話してくることがあるらしい。参与全体で出なければならないような仕事は午前中で終わっていたから、あとはそれぞれが目当ての相手と議論をするなり話しあうなり、または一人で書き物でもするなり、好きにすればよかった。木戸はちょっと考えたあとで、
 「帰るかな」
 と言った。風の抜けない城内も、ずるずると暑苦しい長袖ももうごめんだった。加えて午前中の会議で聞かされた、まったく進捗しようがない、のらくらと優柔で迂遠なばかりの一部の議論も、ねばつく湿気のように気分を重くしていた。
 「帰って水でもかぶるさ」
 眼のはしに苦笑を上せて言うと、
 「それがいいな」
 やはり苦笑でこたえて、広沢は立って行った。
 
 「木戸様」
 と澄んだ声で呼びかけられたのは、冷ました茶だけを啜り了えた木戸が、腰を浮かしかけたときである。
 声のしたほうへ顔をむけると、まだ前髪がとれたばかりな年のほどの少年が、敷居のきわで膝をついている。
 (あれは)
 見た顔だな、と思った。それが土佐山内家の小姓だったと思い出すのと、彼が自分で名乗ったのとはほぼ同時であった。
 「寡君は、今、」
 と、彼はその主君が占めている間の名をあげた。朝臣のうち旧大名たちは藩士たちのように広間にならんでは休息をとらず、めいめいが一室をあてがわれて、供回りの者から給仕をうけている。
 「なんの御一新か。あれでは旧幕の登城風景とかわらぬ」
 そういって苦い顔をするむきもあったが、しかしそこまで急激な変革をかれら大名に期待するのは、酷であろうと木戸は思っている。政務に支障のないかぎりは、「旧幕」の空気が多少もちこまれるのもやむをえないことだろう
 ――たとえば他藩の隠居大名から、まるで自分の家臣であるかのように、こうして呼びつけられるとしても。
 「すぐに、と寡君は申しております」
 お食事中まことに御無礼ですが、といったのは、小姓自身の判断で挨拶したのであろう。彼は彼で、主君の――容堂の放埒さには手を焼いているにちがいない。
 「食事はもう済んでおります」
 木戸は鷹揚に笑った。容堂のいかにも貴種そだちといったふうな気位の高さを、木戸は決してきらいではない。一方での殿様らしからぬ豪宕さとあわせて、彼の愛嬌のようなものだと思っている。
 「まいりましょう」
 腰をあげると、小姓はほっとしたように黙礼した。
 
 容堂は膳を前にして楊枝を噛みつぶしていた。
 「松菊か」
 通されてきた木戸を、もっと寄れ、もっとだ、とせわしいほどに手招きする。彼は木戸が訪ねるといつもこうだった。
 「容堂様」
 挨拶のあと、木戸は容堂の前にひろげられた膳を一瞥して言った。
 「御無礼ながら、あまりお進みではない……――」
 しきりに楊枝をつかっているわりには、膳の上のものにはほとんど箸をつけたようすがなかった。
 「まあな」
 片眉をつりあげて笑う。
 「旨くない」
 「はあ」
 さようでございますか、と木戸も苦笑した。容堂の膳の中身はさすがに木戸らのものとはちがっていたが、いずれも酢やら塩やらでしめてあることはあらそわれなかった。ならばおおよそ味の見当もつくというもので、容堂がいやがるのを、給仕でもない自分がたって勧めようとは思わない。それよりも。
 「なにかお話でございますか」
 呼び出された用件をたずねた。すると容堂は意外にも、
 「いや」
 吐きだした楊枝を、手の中で折りながら言った。
 「べつに用という用はない。ただ昼飯が不味かった」
 「はあ……」
 昼飯の味つけは木戸のせいではない。曖昧にうなずいていると、
 「このぶんではどうせお前も食うてはおるまいと思ってな」
 「それは」
 大方の者がそのようだった、という意味のことを、木戸は歯切れわるく答えた。容堂もやはり、弁当の仕出などは無用の冗費であるというつもりだと思ったのである。
 ところが彼は、まるでべつのことを言いだした。
 「武士が喰物の好みをとやかくいうものではないぞ」
 「……私は何も申しておりませんが」
 「まだ夏は長い。腹を空かしているようではいずれ暑さに中る。それでものの用に立つか、松菊」
 「お叱りはごもっともでございますが」
 おそれながら、と言いかけると、容堂は言下に、
 「儂のことなら聞かぬぞ」
 とはねつけた。
 「どうせお前は儂に人のことが言えた義理かというつもりだろうが、儂はお前とはちがうぞ」
 にやりと笑いながら、懐から出した扇子でしきりに首筋をあおいでいる。
 「儂はの、どうせこのとおりの爺だからの。年寄はあまり食わぬが腹のためだ」
 「容堂様、」
 「それにお前のような他日大いに御奉公の責めがある男とちがってな。儂はもはや、稲荷の鳥居と同じ、それらしく立っているばかりが仕事の楽隠居よ。滋養なぞさほどつけるに及ばぬ」
 「お戯れを」
 木戸は笑うわけにもいかず、容堂の視線をさけてそっと顔をふせた。この気儘な、しかし当代随一といっていい叡才にめぐまれた隠居大名は、ときどきこんなことを言って木戸をこまらせる。といってべつに駄々をこねているわけではなく、彼なりの素直な感慨の流露にちがいないのだが。それでもこうして木戸と差向いでいるとき以外にそれを口にしないのは、言えば愚痴ととられるからであろう。そういう気性の強(こわ)さを好もしく思う反面、木戸は容堂の境涯――なまじ大名などに生まれたという――が痛々しくもあり、自分などの手にあまる彼の鬱懐の重さがなやましくもあった。
 が、容堂は、今日はそれを言うのが目的ではないらしい。
 「まあ、よいわ」
 と笑いまぎらした彼は、膳のわきによけたなりになっていた箸をおもむろにとった。食べるのか、と思い、次の間に引っ込んでいる小姓のかわりに給仕でもしようかと、茶の入った鉄瓶に手をのばしかけた木戸は、
 「それ、松菊よ」
 容堂に箸を突きだされて、おもわず首を引いた。
 箸の先に、鰯の佃煮がはさまれている。
 「……あの、」
 「お前にとらせる。食え」
 「は」
 仕方なく木戸は、捧げ持つようにして両手を差しだした。頂戴します、と言ったが、容堂は気に入らぬふうで、ふんと鼻を鳴らして顎をしゃくった。手をのけろというつもりらしい。
 「こんなものを手で受けるやつがあるか。いいから食え」
 箸は木戸の鼻先にむけられている。いくらなんでも、と思ったが、焦れったくなったらしい容堂にさらにぐいと押しつけられて、木戸は仕方なく口をあけた。
 「よしよし」
 押し込まれた箸先をかるく唇ではさんで、木戸はその施しをうけた。舌の上へ落ちた鰯は、思ったとおり、ひどく塩辛かった。
 「旨いか」
 ひかえめに顎を動かして咀嚼している木戸の顔を覗きこむようにして容堂が訪ねる。木戸は答えず、ただ黙って目礼した。
 「もっと食え。松菊はなにが好きだ」
 容堂はひとたび政略をめぐらすとなれば幕府、薩長ともに怖じたほどにその心胆は老獪きわまりないくせに、冠を脱いで見せる顔にはひどく稚気じみたところがあった。
 今日の彼は、この奇妙なままごとを気に入ったらしい。
 さあ次は何を食わせてやろうか、と鼻唄のようにつぶやいて、彼の眼は弁当の上を楽しげに渉猟している。
 「いえ、私は……」
 ことわろうとした木戸の言葉も、耳に入っていないわけではなかろうに、当然のように無視をする。それどころか、
 「なにが好きというわけでもないのか。それはつまらんな」
 左手で袂をさぐり、手拭いをとりだすと、
 「それではこうしてやろうな」
 やおら立ち上がって木戸の後ろにまわり、しゅっと音をさせたかと思うと、いましがた出してみせた手拭いで木戸の両眼をふさいだ。
 「容堂様、」
 「なに、痕のつかぬように縛ってやる」
 明後日の返事をして、さっさと手拭いを結んでしまう。
 もとより明るい昼間のことであるし、手拭いの生地は薄い。瞼をおさえられていても光はぼんやりとつたわるが、物のかたちはわからない。晦瞑とよぶには中途半端な、ふしぎな闇が木戸のまわりにひろがった。
 その闇のなかを、容堂はふたたび向かい側に座を占めて、さも愉快らしく言った。
 「儂が食わせてやるから、お前は何を噛んだかあててみろ」
 視覚をうばわれた体に、容堂の声が周囲の暑さににじみながら沁みこんでくる。じっとりと内臓を腐らせるようなその感触に、たってあらがうのもなにやら気怠く、木戸はあきらめて唇をうすくひらいた。
 
 「さ、これはどうだ」
 容堂の声は笑いをふくんでいる。木戸はつられて苦笑しながら、
 「茄子の、田楽でございましょう」
 唇の端を指先でぬぐいながら答えた。
 「そうよ、旨いか」
 「はあ……」
 曖昧にうなずくばかりである。酢や塩のものだけでなかったのは幸いだが、田楽など、この季節に食べて旨いものでもない。ねっとりと甘い味噌を嚥みくだして、木戸は手拭いの下の眉根をそっと寄せる。
 容堂は、べつに木戸が喜ぶことを期待してはいなかったであろう。彼自身にしてからが、不味いから食わぬといった弁当である。木戸に食べさせているのはただの遊びであったし、だからじきに飽きてしまったらしい。
 「もう要らぬか」
 かちりと音がしたのは、膳をどけたのだったろう。木戸が返事をしようとしたときには、その体はぐいと腕を引かれて容堂の胸にたおれ、あっと洩らした声も彼の唇にふさがれていた。
 容堂の舌が、さっきまで旨くもない弁当を喫していた木戸の粘膜を荒々しく這いまわる。その感触は馴れたもののはずなのに、木戸はいつもより昂ぶっている自分を感じていた。
 抱きすくめられた体に、じっとりと湿った容堂の熱を感じる。汗のせいであろう、彼の肌のにおいがいつもより濃かった。
 「暑いな」
 唇をはなすと、いかにもやりきれぬといったふうに容堂はつぶやいた。少しく倦怠の色を宿した吐息が、木戸の官能をよけいにくすぐる。
 容堂の腕の力が、わずかにゆるんだ。彼の吐息の聞こえるほうをたよりに、その肩のあたりへ手を添えようとしたとき、しゅっと高く衣擦れの音がして、木戸の首周りが軽くなった。容堂が直衣をほどいているらしい。
 「容堂様」
 そっととがめるようにその手にふれたが、もとより本気で止めようとは思っていない。目隠しをされたときからその予感はあった。さらには、見えぬままに彼の手から突き出された箸に唇をあて、施されたものをねぶり、舌でころがし、しかもそのさまをすべて見られているかと思うと、はしたないとは思いつつも、体の芯に火が灯るのをどうしようもなかった。
 容堂の手が、肌着の襟を割って辷りこむ。その指先が、いつもより熱い。胸元を撫でる動きがこころもち重たげなのは、汗に湿った木戸の肌が手に貼りつくせいだろう。くっついては離れるふたつの肌の、じわり、じわりというかすかな音を聴きながら、暑さに汚れた体を羞じた。
 ふと、その手が離れ、容堂の体温も遠のく。数秒ののちふたたび彼の体温を近くに感じたとき、木戸はそのわずかな間が何を意味するのかわからなかった。
 が。
 「あ……っ」
 びりりと痺れるような感覚が、触れられた粘膜から脳天までを逆さに貫いた。おもわず逃れようと引ける腰を捕らえられ、くりかえしその刺戟はあたえられる。
 「……ふ、ぁ、ああ、」
 身をよじりながらも、木戸は背をそらし、容堂の手にそこを押しつけるようにする。何をされているのか、見えなくてもわかった。固くて細い、先のとがったものに、乳首を抓まれている。
 (箸……)
 それが箸だろうとは容易に見当がついた。さっきまで木戸の口に食物を運んでいた箸で、容堂はその肌を嬲っているのだった。
 「これ、動くな松菊」
 「や……、ぁ、」
 「動くと滑ってつかめぬ」
 そう言いながらわざと箸先でそこを引っ掻き、またつつく。
 「ひ、っあ、」
 幾度となく愛され、あるいは辱められてきたせいで、木戸のそこはひどく刺戟によわい。触れられればたやすく膨れ、いたぶられればすぐに固くなる。それを愉しんでさらにそこで感じることを教えこんだ男のなかには、容堂も、いまは泉下に睡る男も、さらにはすでに顔も名前も忘れた男もいた。
 「動くなというに」
 容堂の息遣いを、ほとんどじかに肌で感じる。
 「やはり、箸にはかからぬかな」
 じかに食うよりほかないな、とぬらりと湿った声がほくそ笑む。その意味をさとるより先に、熱い唇が押しあてられた。
 「んぁ……っ」
 容堂の袖を皺になるほど握りしめた。音を立てて吸い上げられて、粘膜の奥、肉の深いところがじんじんと疼きだす。
 「容堂様……ぁ、」
 襖を隔てた隣には彼の小姓がいる。廊下を行けば、ことごとしい位階や役名のついた朝臣が鈴なりにつらなっている。何より奥は宸殿であるこの城内で、と思うのだが、意志より先に体がずるりと熔けだしている。
 「ん、は、あぁ……」
 舌で転がされ、歯を立てられて、またきつく吸われる。反対側の乳首が置き去りにされていることが切なくて、胸を反らして暗にねだると、たちまち熱い手が伸びてそこを慰めてくれた。愛撫はしだいに激しくなり、木戸が座っていることに堪えがたくなったのと、容堂が体を押してきたのとはほぼ同時だった。背中に手を添えられて、彼の重みを受けとめながらゆっくりと身を横たえた。
 
 容堂の手が、木戸の腰から袴を奪ってゆく。いつもはさほどのものとも思わないのに、衣が肌を辷る感触が、見えないなかではいやに生々しく、ああ、いま腿が、いま膝があらわになったと思うごとに、ざわりと肌が粟立った。
 暑さと肉の飢(かつ)えとで、木戸の息はすでにあがっている。ときおり額ぎわをむず痒いものが走るのは、多分汗が滴っているのだろう。
 自分の呼吸にまじって、容堂の押し殺した獣のような息が聞こえる。彼はいくらか衣を解いたのか、抱きしめられた感覚には、汗ばんだ肌がじかに触れあうねっとりとした密着感があった。
 「今日は、いつもよりお前のにおいがする」
 耳許で囁かれて、おもわず襟をかきあわせようとした。その手は容堂に押さえられたが、
 「では、せめて体を拭いましてから……」
 申し出ると、彼が笑った気配がした。
 「美酒はまず香りでたのしむものよ」
 瞬間、さざなみのように肌を打った淫楽の気配に、木戸の体がゆるくわなないた。
 
 両腕を体の脇に沿って伸ばすようにいわれたとき、木戸は素直にそれにしたがったが、やがてそれぞれの側の足首をつかまされ、一方ずつ帯のようなもので括られたとき、さすがにそれを逃れようとして悲鳴をあげた。
 「べつに痛くはなかろう」
 容堂は愉しげな声で言う。
 「こうでもせぬと、お前が暴れると厄介だからな」
 「何をなさるおつもりです」
 「痛くはせぬというておる。……それとも、」
 容堂の唇が、木戸の耳朶に触れる。
 ――儂の手管で、お前がよくならなかったためしがあるか。
 低く鼓膜に沈む声が、木戸の肉の奥を重くふるわせる。危険だ、と理性は訴えているのに、過去何度も彼によってもたらされた法悦の記憶が、心を淫らにひらいてゆく。木戸はかるく唇を噛み、情慾に熟れた体を容堂の前に投げ出した。
 「これは、絶景」
 襦袢の裾が払われる。膝に置かれた手が次第に内側へすべってくるのを期待半分、恐れ半分に感じていたとき、
 「ひ……っ」
 唐突に、それはあたえられた。
 いつから、と断定するのは木戸自身にもむつかしいが、容堂の情火に照らされて、陰茎はすでにそそり立っていた。彼の愛撫を待って蜜を零しつつあった先端が、熱くぬめった感触に呑み込まれる。
 「あ、やぁ……っ」
 縛られているせいで、手ではねのけることも、足をふるいたたせて逃げ出すこともかなわず、木戸はただ背をしならせてその蹂躙に耐えた。口淫などするのもされるのも目新しい経験ではないが、よもや容堂から――土佐二十四万石の老公からそれを施されようとはおもわなかった。愕きと、多分に甘さをふくんだ困惑とで、木戸の体はいつにもまして熱く潤んでゆく。
 「お、ゆるしくださいませ、」
 懇願しても、容堂の返事はない。張りだした笠の下をぐるりと舐められ、音を立てて先端を吸われる。舌先で溝を嬲られるくるしさに、喉を反らせて悲鳴をあげた。
 「松菊」
 容堂はそこでようやく口を離し、しかし念入りに息を吹きかけながら言った。
 「あまり大きな声を出すな」
 びくりと木戸の背が顫える。襖のむこうにいる前髪の剃りあとも美しい少年のことを、なにかひどく清純なもののように――自分の不徳をとがめているように思った。彼の顔を知っている自分は、おそらく今まで何度も、容堂との媾合の声をその耳にさらしている。それだけでも充分に慚愧に値するというのに。
 (もしも、人が通ることがあれば……)
 今日の城内には、容堂より高位の人も詰めているはずである。否、位階はともかくも、余人に知られていいことではない。声を呑むよりもまず、断固として交接を拒まねばならぬはずなのに。
 「……っん、ふぅ、ぅ、」
 額に汗をにじませながら、木戸は容堂の愛撫をうけ容れた。彼にあたえられるただならぬ淫楽を知ってしまった体は、すでにそれにあらがう方途をもたなかった。
 「ぅん……、ぁ、」
 両手が添えられ、濡れた舌が次第に根元のほうへ下りてゆく。陰嚢に吸いつかれたとき、なにかあられもないことを口走りそうになって、木戸はあわてて唇を噛んだ。滾る血が悦楽に犯されてゆく感覚とともに、もしやという期待と恐れとが、ざわざわと砂が風に吹き寄せられるように腰のあたりにあつまる。
 「あぁ、あ……」
 両膝のあいだに彼の肩があるせいで、脚をとじることはできない。ひくひくと太腿をふるわせながら、木戸は咎めるように、ねだるように細い呻きをあげつづけた。
果たしてその瞬間が訪れたとき、最前からずっとそれを望んでいた自分をあらためて知った。そしてまた、その悦びとは裏腹に、ひたすら否定の言葉をかさねる自分の姑息さも。
「や、容堂様……っ」
おゆるしくださいませ、後生でございますと譫言のように訴えながら、逃れようのない快楽にひたすら身もだえる。
容堂の舌は、彼がいつも木戸と繋がる場所を――木戸が最も近く容堂を感じる粘膜をとらえていた。
「どうか、ぁ――!」
愛され慣れた場所ではある。丹念に撫でられ、ほぐされた記憶のある場所である。しかし今日の愛撫は――舌を這わされるなどはさすがに勝手がちがいすぎる。
(せめて湯をつかったあとならばともかく――)
ぐずぐずと焼け爛れてゆく意識のなかで、木戸は汗に汚れた体を羞じていた。
「お離しくださいませ、お離……っ」
自由にならない四肢を必死によじるのを、大きな手に押さえつけられる。
「よいよい」
木戸の狼狽さえ愉快であるように、容堂は笑みのゆれる声で答え、それからよりねっとりと舌をつかった。
手足を縛ったついでに猿轡でも噛ませてくれればよいものを、容堂は木戸の口は解放したまま、ただ声を忍べと愉しげにささやく。木戸は何度も唇を噛み、噛みそこねては濡れた声を洩らし、そのきまりわるさにまた身もだえた。
「魚の口のようだな」
ひとりでに動いておる、と、容堂の舌先がそこをつつく。何度かそうされたあと、ぬるりと舐めあげられ、音を立てて吸い上げられた。
「はぁぁ……っ」
大きく背をしならせ、畳に頭をすりつける。つけたままだった冠がずれて、顎紐がわずかに喉を絞めた。
「ん、ふぅ……っ」
「襞の数をかぞえてやろうか」
放射状に皺をつくっているであろうそこを、熱くぬめった感触がぐるりと一周した。
「や、あ――」
「それとも、中を洗ってやろうかの」
「んぁ……っ」
ひくついて愉悦をしめしている淵へ、容堂の指があてられる。そのまま中へもぐりこむようにしながら押しひろげられ、できた隙間へ柔らかに濡れた粘膜が身をよじらせる。
「あ、あ、」
それは木戸の淫慾を餌に這いまわる妖のように、悦びに顫える肉の裂け目をぬらぬらと犯した。
「さあ、どうする」
もっと奥を差し出そうと木戸が腰を浮かせたとき、容堂は不意にしりぞいてそう尋ねた。,熱をとりあげられた体がさびしさにおののく。
「あ……?」
その両膝を押さえたままで、どちらがよい、と容堂はなおもさきほどの選択を問うてくる。低く、肉の内をくすぐるような声。
「お前にえらばせてやる」
「中、」
途中でとりあげられた切なさに、木戸はしがみつくように叫んだ。
「中を、どうか――」
「お前は中が好きだな」
体を暴かれて、男に嬲られるのがたまらぬのだろう。――ひどく辱められているのに、期待と嬉しさとが胸をきゅうきゅうと絞って、その甘い苦痛に木戸は溜息をついた。
 
「容堂様……容堂様、もう……っ」
舌と指が出入りする感覚が、なにか見知らぬ生き物に犯されているようでたまらなかった。濡れた音が、目がきかないせいでやけに高く鼓膜を打つ。昂まりかけてはぬるく宥められ、薄い布に覆われた瞼の裡に、ちかちかと白い光が明滅した。
「どうした、これでは不服か?」
舌を抜き、なおも二本の指で熟れた粘膜を弄ばれる。
「容堂様、」
懇願する声に、すでに涙が滲んでいた。
「苦しいか」
尋ねられて、夢中でうなずく。
「お前は、まったく好き者で仕方がないな」
耳朶をきつく噛まれたのは、咎められているのだろうか。容堂の吐くことばはもはや風や虫の音のように届くばかりで、その意味まではわからない。ただ彼の笑っているらしいのが、くすぐったく木戸の肌を撫でた。
「松菊はもう欲しいのか」
んん? と耳許でささやく声がやさしい。何を問われたのかもよくわからないまま、体の疼きの命ずるのにしたがって、手首と結わえられたままの脚をめいっぱいにひろげた。
心臓が大きく脈打つ。容堂の肌のにおいが、ひときわ濃くなった気がした。
「そうかそうか」
という声はやはりやさしい。木戸はうっとりとして力を抜いた。
が。
「んはぁ……っ!?」
受け容れることを望んだのは木戸である。しかしあたえられた感触は、予期していたもののそれではなかった。
「あ……あ、容堂様、」
何を、と問う声が、自分でもきまりわるいほど上ずっている。容堂が喉の奥で笑う気配がした。
「さきほどのつづきだ。当ててみよ」
「いぁ……っ」
埋め込んだものをぐるりと回される。さほどの大きさは感じないが、しかし先端が複雑に張り出しているらしい。その凹凸が、木戸の粘膜を放埓に掻きみだす。
「当てられたら、お前の欲しいものをやろうな」
いいか、当ててみせよとゆっくりとささやかれて、唇のふれている耳朶から脳髄へ、じわりと彼の企みが沁みいってゆく。命ぜられたことの内容をさとった木戸は、ざわりと鳥肌のたつのをおぼえながら、布に覆われたままの睫毛を涙に濡らした。悲しみでなく、また歓喜ともわずかにちがうそれは、純然たる痴情の熱に蒸れていた。
「ん、ん、ぁ……」
本当は、それの侵入をうけたときから知っていたのだ。
「さ、どうだ」
「あ……あ、」
「わからぬか」
「あ、や、矢立……っ」
なまぬるく犯される感覚に、木戸はたまらず叫んでしまっていた。
「ほう」
わずかな愕きと、意地のわるいよろこびとが、容堂の呼吸ににじんでいる。
「よくわかったな」
と微かに憤ろしくささやかれて、木戸の肩がびくりとふるえた。
(ああ、やはり)
当ててしまったかと、甘い後悔が肉の奥を浸す。
決して当てられぬものではない。粘膜をえぐる大きさも形状もその何であるかを主張していたし、容堂はかねて何かを用意していたふうでもなかったから、それは互いの身のまわりにあらかじめあった物ときまっていた。くわえて木戸は容堂にくつろげられた長着の懐に、矢立を入れておいたおぼえがあった。
しかし、だからといって。
それが自分の愛用の矢立であると、咄嗟にあやまたず言いあてられるものではない。木戸はそれをよくわかっていたし、だから本当はとぼけておくつもりでいたのだが。
熟れきった体は長く弄ばれることに耐えられそうもなかった。矢立、とつい口走ってしまった自分を悪みつつ、ほかにどうしようもないことを淡くかなしんだ。
「よくわかるものだ」
と容堂はもう一度言った。
やわらかに肌を撫でるようなその声に、しかし無限の嗜虐のにおいを感じて、木戸はおそれと悦びに身をすくませる。
「松菊よ」
果たして彼の口吻は、知ってしまった人のそれであった。
「お前、誰ぞとこうして遊んだことがあるな」
ぐい、と深く捻じこんだ異物に奥を刺戟される。
「ああ……っ」
「あるな?」
責め苦とともにかさねて問われて、木戸は声もだせずにがくがくとうなずいた。ふ、と容堂の笑いが洩れる。
「どうしようもない体だのう。ほれ、」
 儂も遊んでやろう。こうがいいのか、それとも、こうか。固くいびつな墨壷でぐりぐりと中を苛まれて、しかしどうしても決定的にはなりえないその感覚に、木戸は背をしならせて啜り泣いた。
 「どうだ、松菊」
 「おゆるし、おゆるしくださいませ……っ」
 「ゆるしとな、何を赦せばよい」
 容堂は手をやすめない。
「お前がさっさとこの正体を当ててしまったことか。それとも儂の知らぬところでこんな遊びをしていたことか」
――それとも。
熱い唇に、耳朶をはさまれる。
「この体の淫らさを、か」
「ぁん……っ――」
返答を考える余裕もなく、木戸はただ首を横に振りながら、容堂様、容堂様と譫言のように自分を犯している情夫の名を呼んだ。体が熱い。熱くて切なくて、もっとたしかな手応えに犯されたくてたまらない。
「……で、……います……」
無意識に、言葉が喉をすべりでる。
「ん?」
容堂が身を動かした。耳を寄せたようである。木戸は必死に息を紡いだ。
「お約束、で、ございます、」
「約束?」
「お約束くださいました。何を下されたか、私が当てましたら……っ」
ぶふっと奇妙な音がした。容堂がたまらず噴きだしたらしい。食言をたしなめるなど非礼でもあり、それ以上にこの場合滑稽でもあろうが、木戸はもうそれどころではなく、ただこのやわらかすぎる快楽の地獄から救いだされようと夢中でもがいていた。はじけるように哄笑(わら)う容堂の声を聞きながら、彼には見えない涙をだらしなく零しつづける。
「安心しろ」
ひととおり笑いおえたあとで、容堂の低い声が、体の奥の濡れて繊(こま)やかに波うつ襞をくすぐる。木戸自身にさえ見えないそのさざめきを、しかし彼は知っているかのように絶妙な間をとって、
「儂は嘘はつかぬ」
言ったかと思うと、中を苛んでいたそれをずるりと引き抜いた。そうして、
「あ、あああぁ――――」
待ち望んでいたものが、焦れて泣き濡れていたそこへあたえられる。
「――わかるか?」
意味ありげに尋ねられたことばに、木戸はふるえながらうなずいた。
(いつもより……――)
ならい憶えた質量よりもきつく圧迫されていることを、先端の怒張の強(こわ)さで木戸はわかっていた。固く眼をとじ、肩で息をしながら、その苦しさが嬉しくてたまらない。
もっと奥へ彼を誘おうと、貪婪な粘膜がひとりでに蠕動する。
「まったく、お前は」
容堂が満足げに笑う。それからひといきに、腰を押しつけられた。
「ああ、あ、あ――――」
奥の奥まで重く盈たされて、瞼の裡に白い海がひろがる。高く打ち寄せる波に呑まれて、木戸は自分の四肢がもぎとられそうになるのを感じた。悲鳴をあげるかわりに放ったものは、息のとまるような恍惚を誘いながら何度も繰りかえし、ふるえる腹を汚した。
 
長く尾を引く快感に、時折思い出したように爪先をひくつかせながら、木戸はまだ体の中にいる容堂の感覚に――すこしもやわらがない圧迫巻に耐えている。汗に濡れた胸を上下させてゆっくりと呼吸をととのえていると、
「っあ……!」
罰するように乳首を抓まれた。
「欲しい、欲しいとねだっておいて」
うん? と子供に尋ねるような声音をはさんで、中におさめたままのもので軽く揺さぶられる。あきらかに弱い場所をねらったその動きに、木戸はするどく息を詰めた。
「挿れただけで気をやるやつがあるか」
「申し訳ございませ……、」
「どうしてそう堪え性がないものかのう」
お前の、ここは。
容堂の指先が、達したばかりの先端をくじる。
「ひぃ……っ」
痛いほどの刺戟に肩が跳ねた。溝に指を這わされ、さきほど吐精したばかりの孔をつつかれると、びりりと稲妻のような痺れが全身を貫く。そのたび彼に穿たれている肉がぎゅうっと締まって、その形をさらに感じてしまう。
「ひ、や……」
気をやったばかりの体に、その感覚の凄まじさはつらかった。
「容堂様、」
身をよじっても、逃れることはかなわない。
「く、るし……、」
涙もよいの声で訴えても、暴虐はやまない。彼はいまおそらく、征服の悦びと、遊びに興じる子供の無邪気さとを苦味ばしった眉宇のあたりにじわりとうかべて、獣のような眼を愉しげにほそめているのだろう。木戸は見えないなかでもその表情をはっきりと思いうかべることができた。そうしてそれは、木戸のもっとも好きな表情でもあった。記憶のなかの彼の眼、彼の息遣い、それらとともにもたらされた気の遠くなるような快楽を思って、木戸の肌はさらに熱くなった。
「あ、あ、あ……」
容堂の指先は執拗にそこを嬲る。木戸は自分の腰になにかこれまで知らなかったものがざわざわと駆けのぼってくるのを感じた。それは快楽にはちがいないが、臓腑の浮きあがるような恐怖をともなうものだった。
「お、離しくださいませ……っ」
「んん?」
容堂の声が笑っている。
「もう、あ、あぁ――――」
全身がびくびくと痙攣する。ひどく熱いものが体を――血のなかをさかのぼってきて、堰きとめようにも力が入らない。それはあきらかに溢出をもとめていて、しかし吐精のときとはちがう感覚に、木戸はもしや自分が粗相をするのではないかと脅えた。せめて容堂の手を引き剥がしてしまいたかったが、彼は相変らずそこを弄りつづけていて、どうにもならない。
「や、ぁ――――――」
脳髄が砕けて、白く飛び散るようだった。ぷしっと熟れきった果実が弾けるような音がして、木戸は自分が開放をむかえてしまったことを知った。細く、いくらかかよわく吐き出している感覚。腰ががくがくとふるえ、それは断続的に数度、つづいた。恍惚のなかで頬がつかまれたかと思うと、容堂の熱い掌に口を塞がれた。多分そうして抑えねばならないほど声が洩れていたのだろうが、木戸は自分が叫んでいたことさえわからなかった。
 
眼をあけると、そこはもう薄闇ではなかった。
身じろぎする気配に、容堂が気づいて顔を覗きこむ。
「起きたか」
と問われて最前までのことを思い出し、木戸はそっと目をふせた。上体を起こそうとして、手足の縛めに阻まれ、さらにどろりと自分の中から流れ出す感覚に身をすくめる。容堂がいつのまに放ったのか、あの凄まじい快楽のなかではわからなかった。
「おどろいたか」
彼の手が頬にあてられる。目隠しをとってくれたのは、木戸の顔色を見るためだったのだろうか。
「あの……、」
と、容堂の手に目をやり、それから体の下に敷かれた衣服の、濡れた感覚をたしかめるように尻を動かす。喪神する直前の記憶はないが、どうもとんだことをしたかもしれない。
すると、その意を察したらしい容堂がにやりと笑った。
「気に病まずともよい。別に汚くはないからな」
「は……」
「女でも稀なものを、お前は」
笑いの底に、心底愕いたような気配がある。そこで初めて容堂の言った意味に――最前自分の体におとずれたものの正体を知った木戸は、さすがに言葉をうしなって唇を噛んだ。
「なんだ、もしやお前、」
容堂は片頬をつりあげた。貴種そだちとしてはいささか険のありすぎる眼がぎらりと光って、木戸は自分の体のうちにふたたび熱が灯るのを感じた。
「初めてか」
首筋を撫でられ、耳元でささやかれる。濡れた溜息を洩らしながらうなずくと、硬い歯が勝ち誇ったように耳朶を噛んだ。
「ぁ、」
「儂も、女で数えるほど見たにすぎぬ。まして男など……」
「ん……っ」
「話に聞いたことはあるが、眉唾だと思っておったわ」
お前の体は、本当にしようがないな。半ばあきれて吐かれたはずのその言葉を、なぜかどうしようもなく甘く感じて、木戸はうっとりと容堂の胸の下で目をとじた。
 
自由にならない膝を、肩につくほど折り曲げられる。上からまともに折かさなる姿勢は、ことにその力強さが木戸にたまらないのを、彼はちゃんと知っているのだ。
触れられた肉の淵が期待に蠢く。そこは木戸の体の一部であるというよりも、今はひたすら容堂のための器官になっていた。
容堂の雄が、猛々しく天を仰いでいる。彼は右手でそれを支え、これから繋がるために、左手で木戸の膝頭を押さえた。獲物をいよいよ屠るときのような、鋭く、またわずかに憐れみをたたえたその眼。はしたないとは思うものの、湧きでてくる生唾をとどめえず、木戸はぐっとそれを飲みくだした。喉が鳴る音は木戸の耳にこそ高く響いたが、窓や壁の隙間からほとんど突き刺すように入りこんでいる蝉時雨で、容堂には届かなかったろう。
暑さと、さっきの媾合の名残とで、体は畳を湿らすほどに濡れている。見上げた容堂の肌も、陽の光にぬらりと輝いていた。彼はさすがに色は白かったが、武芸で鍛えぬいた肩や胸のあたりの肉の盛り上がりぐあいは、とても大名のそれではない。それらが彼の呼吸とともに膨れたりまた沈んだりするさまをじっと見つめていた木戸は、
「これを」
と括られたままの両手足を、やおらその目の前でゆさぶった。
「どうした」
容堂の唇が、指先にふれて、また離れる。木戸は小さく溜息をついた。
「ほどいてはいただけないでしょうか」
「痛いのか」
「いいえ」
ただ、とかすかに笑いながら、指先をそっと握りしめる。
「もっとお側にまいりとう存じます」
容堂に、もっとふれたい。抱きしめられるだけでなく、彼の首筋に、背中に縋りついて、その体を感じたいのだ。
容堂は、長いまばたきを一度した。それから何もいわず、自分が結わえた帯を、くるくると器用に解きさった。
久々で血がかようような気がする手に、容堂が指をからめる。木戸も強くそれを握りかえした。互いの目が合い、視線を交わしたまま、どちらからともなく深く口づけた。容堂の手が離れ、ふたたび膝に置かれる。それを合図に木戸も、彼の肩に手をまわす。
「ん、っ―――――……」
口を吸われたまま、容堂の熱く鍛えられた情火の剣に貫かれる。押しひらかれ、粘膜が灼かれてゆく感覚に、木戸の意識はぐずぐずと爛れて潤む。
「さっきひらいてやったのに、もうきつくしているのか」
と容堂が言ったが、木戸の体は容堂を忘れたのではない。ふたたび彼を迎えたのが嬉しくて、つい離すまいとむしゃぶりついているのだ。
それを訴えようとして、木戸はしきりに声をあげながら、容堂の肩にしがみついた。彼の笑う声が洩れて、ぐぷりと音を立てながら、それは木戸の恐れていた角度に刺しこまれた。
「い、ああぁあああ、」
背筋の痺れるような快感が走る。ぼろぼろと涙がこぼれて、容堂はそれを吸い上げながら、愉しそうにそこを擦りあげてきた。
「あ、ぁ、おゆ、るしくださ……っ」
揺さぶられながら、木戸は左右に頭を振った。容堂が最前放ったもののせいで、繋がった場所からは濡れた音がとめどなく洩れてくる。弱い場所を責められているうえ、耳まで犯されているようで、木戸はせめてその音から逃れようと、手で耳を覆った。
と。
「ほう。この音がきらいか」
容堂はわざと音をたてるように腰をつかった。
「お前が悦んでいる音だぞ」
「あ、あ……」
粘膜が容堂を喰んでいる。奥をめざして突き上げられているのは、容堂がそうしているのか、それとも自分の体が誘っているのだろうか。
「こんなふうに鳴るのがいやなら、こうしてやろうか」
彼はそういうと、腰の動きをゆっくりと捻じまわすようなそれに変えた。
「ああああぁ、」
腹の中をいびつにかき回されて、より容堂の圧迫感をおぼえてしまう。にちゃにちゃと歯のない老人が草を噛んでいるような音がして、そのこともまた木戸の官能をかきたてた。
「なるほど、奥がひらいてゆくな」
「ひぁ……っ」
「すると、こうしながら、」
容堂はさっきの場所を狙いながら腰を回す。
「……奥も突いてやらねばならんのか」
ずん、と腹の奥に重い衝撃が走った。
「ああぁっ」
「まったくお前は難儀だな」
「ぁ、そこ……、」
「儂がこれまで情けをかけた女に、お前のような面倒な者はおらなんだ」
「はぁ、ん……っ」
木戸はもう、どれほど辱められても、容堂にさからおうとは思わなかった。容堂も、饒舌だったのがしだいに吐息を洩らすだけになり、あとは互いに、獣のように交わった。
汗に濡れた体が滑って、何度か容堂の背に腕をかけなおした。身じろぎするたびに互いの肌が貼りついてははがれ、そのたびに離れてはいけないものが引き剥がされているようで、木戸はさびしさに声をあげた。
 「あ、いく、容堂様、もう……っ」
 びくびくとふるえる脚を、容堂がとって彼の背に回させた。それを畏れるほどの恭謙さはすでに忘れて、自分を犯している雄々しい肉体に、ただ夢中で四肢をからめた。
 「あ、はぁっ、ぁ――――――……」
 最後の瞬間、木戸は自分の体がほとんど浮き上がるのを感じていた。
 
 「あまり大声を出すなと言うたに、なあ」
 あわてて襦袢の前をかきあわせた木戸を横目に見ながら、容堂は涼しい顔で扇子をつかっている。
 二人の前に、容堂の小姓が平伏している。木戸がこの部屋に通されてからずっと襖の前に控えていた彼は、無論一部始終を聞いていたであろう。顔を上げないのは、木戸がばつがわるいのと同様、彼もまたこの場にいたたまれないからにちがいない。
 長い交歓のときが果て、自分だけ身づくろいをしたあと、
「儂の着替えをもて」
と襖越しに命じた容堂は、強引に彼を部屋の中に召した。汗と精にまみれたまま、どうかいましばらく、と懇願する木戸に片頬だけの笑みで報いて、
「いまさら取り繕うこともあるまい」
と言った。たしかに過去何度か、容堂の邸で彼に会っている。そしてそのいつでも、彼の控えているすぐ奥の間で容堂に抱かれ、啼き、喘いだ。はじめはさすがにいやがったのだが、
「儂はこれでも国持の身だからな」
と容堂はいうのである。
「寝所にも手勢を伏せておくのは将のたしなみだ」
そういわれてしまえば一応もっともでもあり、容堂のような育ちであれば、はじめて女人に接したときから、几帳一枚隔てて﨟女が控えているのはあたりまえのことであったろう。木戸は、やむなく屈した。以来、何度かその小姓には閨の嬌声を聞かれている。
しかしだからといって、容堂の精を体からあふれさせたまま、下帯もつけていない姿を彼に晒すこともなかろう。
木戸は挨拶のことばもなく、ただうらめしげに容堂を見上げたが、彼はやっぱり平気で、
「仕方なかろう」
と片頬をつりあげた。
「お前もその姿で出て行けるものではあるまい」
小姓が捧げ持ってきた衣服を片手でうけとった彼は、それをばさりと木戸の前に投げだした。
「お前にとらす」
それを着ておけという。木戸は山内家の定紋が染め抜かれていることにとまどったが、どのみち直衣の下に着るのだといわれて、なるほどとおもわず感心した。木戸の長着と襦袢は体の下で揉みくちゃになって、おまけに情交のしるしに濡れていたが、直衣と袴とは脇にとりのけてあった。容堂は、そこまで計算したのだろうか。着替えの用意自体はさすがに単なる急場の備えというものであろうが、今日ここで木戸の肌を犯すことを思いたったときから、彼はそれを役立てることを考えていたのであろう。
(なにもそんなところまで)
軍師であられずとも、と、謀才をうたわれている日頃の彼を思って、木戸は妙に可笑しかった。
容堂から下げ渡されたのは、綸子の襦袢に紗の長着であった。木戸がそれを手にとったとき、小姓が一礼して退がろうとするのを、容堂がゆるさなかった。
「そこで検分しておれ」
いうなり、木戸の目隠しに使っていた手拭いをとりだして、その肌を浄めにかかる。
「容堂様、」
よくない悪戯だ、と思ったが、どうせ制せられてやめる彼ではない。それ以上に木戸は木戸で、このあたらしい遊びに――紅顔の少年を前に痴戯にふけるという――ひそかに体が疼くのをおぼえていた。
容堂の手は、未だ悦びの余韻にふるえている体を、そのもっとも濃まやかな瞬間の記憶をなぞるように撫でてゆく。布地越しに彼の掌の熱さを感じて、何度も噛まれた乳首はふたたび固くなり、彼の重みを感じていた腹がざわりと波立ち、きつく押さえられていた腿が甘くわなないた。
「ん、ふぅ……っ」
 もうこれまでだと思ったはずの体に、まだ埋み火が燻っていたことを知る。木戸の吐息はしだいに湿り気を濃くし、肌が物欲しげに上気していくのを自分ながらはっきりと感じた。
 「…………」
 蚊の泣くような声が聞こえたのはそのときである。容堂が手を止め、木戸はさびしさに彼の顔を見上げた。にんまりと笑ったその目は、あの可憐な少年のほうを見ている。
 「大殿、どうか……」
 彼はまだ少女のようでさえある美しい顔を耳まで赧く染めて、細い肩をさらにすぼめていた。
 「畏れながら、お戯れがすぎまする」
 よそ目にもわかるほどかたく体をこわばらせて、ようやっと絞り出した声はこまかにふるえている。その狼狽と緊張は、仕掛けた木戸にも気の毒におもえるほどであった。
 いまさら、とさっき容堂は木戸に言った。なるほど少年は、いまさら二人の痴態が羞ずかしいわけではないであろう。そうではなくて、彼が脅えているのは――――……
 正しく折られた膝が、苦しげにもぞもぞと動いたのを容堂は見逃さなかった。
 「お前は存外ませているようだな」
 (ほう)
 と木戸が思ったのは、容堂の言葉に、彼が見えるかぎりの膚(はだ)をいよいよ茹であがったように赤くして、泣き出しそうな顔をしたからである。それがまんざら子供らしくもなく、ふしぎな殆うさをたたえていた。
 「この男の妙味がわかるとは、なかなかどうして」
 容堂は木戸の顎のあたりを撫でながら、からかうような目を少年に向ける。首をすくめてちぢこまっている細い体をじろりと睨めまわすと、
 「しかし、そう痩せぎすではなあ」
 大仰に溜息をついた。彼に見せつけるように、木戸の顎をもちあげながら親指の先を唇にふくませ、もう一方の手で胸をまさぐる。ん、と木戸が声を洩らすと、少年の肩がびくりとふるえた。
 「そら、な、すこし触れてやっただけで松菊はこうだ。この男の相手は骨が折れるぞ」
 意地の悪さと慕わしさとをほどほどにふくんだ声が、木戸の官能をくすぐる。焦らすようにゆったりと動く手は、知り尽くしている、という自信に満ちていて、そのおおらかな傲岸さに胸が高鳴った。
 そうして、遠慮がちに、しかし逸らすことなく自分にむけられている少年の視線。それをすくいとるように、容堂はふんと鼻を鳴らして笑った。
 「もう少しお前の体ができてからだ」
 「あ……」
 若い視線が体を炙る。身をよじる木戸の首筋に歯を立て、ふるえる肌をたのしげに味わいながら、
 「そうすれば、いずれ抱かせてやる」
 情人としては最大級に非情なことばを、容堂は鼻歌でも唄うようにして言った。それでも木戸の体は甘く蕩け、かすかに衝撃をうけた心も、次の瞬間にはその傷口から歓びの蜜を垂らし、じゅくじゅくとした淫慾に爛れてゆく。
 「お戯れを……」
 ようやっとという風情でつぶやいた少年の、彼のまわりだけ青く清冽にかがやくような、みずみずしい生真面目さ。そしてそういう彼自身を裏切って、青年に近づきつつある肉体と好奇心とが、木戸への――肉の誘惑への抗えない期待を外面に示し、容堂をほくそ笑ませるのだ。
 主人に調戯われた少年は、美しい眼にうっすらと涙をうかべていた。彼の羞恥と歎きもまた、木戸の体の奥に棲む淫獣の餌となる。目があった瞬間をとらえて微笑んでみせると、彼は飛びあがりそうにして肩をふるわせたあと、空気でも抜けたようにしおしおと項垂れてしまった。
 「松菊よ」
 容堂が笑う。
 「今言うたばかりではないか。あれにはまだお前は早い。――腰を抜かしてしまったではないか」
 まったくお前は仕様がない。今日何度目かになる言葉を吐いて、胸をまさぐっていた指の腹で乳首をひねった。
 「ぁん……っ」
 「他家の近習にことわりもなく手を出すなど。お前には少し躾が要るな」
 「容堂様……」
 「帰るぞ」
 お前も一緒にだ、と言って彼は立ち上がる。あわてて小姓が平伏した。
 一緒に、ということは彼の邸に自分も連れ帰るつもりであろう。躾、といったが、それがどういう内容のものなのか、わからない木戸ではなかった。
 「死んでしまいます」
 控えめにあげた抗議に、容堂がとりあわないのはわかっていた。木戸がついてくるのを当然と心得て、彼はさっさと背中をむけて歩いてゆく。労れきった体に、しかしじんわりと水の温むような期待がひろがるのを感じながら、木戸はそっとわれとわが手に自分の体を抱き、おどおどとした目をあげた小姓に、もう一度嫣然と微笑んでみせた。
 体が、燻されるように熱くなる。
 外ではあいかわらずけたたましく蝉が鳴いていた。皮膚も肉も汗になって崩れおちていく倦怠に身を浸しながら、木戸はゆっくりと立ち上がり、格子窓のむこうの夏空を見た。

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【2013/08/10 10:20 】 | よみもの
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