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多分今回がかわいそうなことのされ納めです。
微妙に去年書いたものとつながってます。→●
あの男たちは、一体何人に小五郎を斡旋してまわったのだろう。
小五郎の体の上を過ぎていった男たちの数は、あれから七日ほどで、すでに算えるのが億劫なほどになっていた。なかにはよほどの好き者なのか、あるいは女を買う金がないのか、毎日やって来る男もいた。 「ああ、お前の体はいい」 腰を振りながら男は毎度言ったが、なにをそれほど感歎しているのか、小五郎にはよくわからなかった。ただ、 (しつこくて嫌だな) なかなか自分の中から出ていかない男に、気が遠くなるまで貪られるのが憂鬱だった。 「おい、まだか」 その男のせいで、ほかの男たちも焦れていらだちはじめる。替わったあとできっと酷くされる。それを思うにつけても、 (早く終われ) 小五郎はうんざりしながら、男を高めるために自分から腰を揺らした。そういう技巧までも、すでに覚えこんでしまっていた。 「おい、長いぞ」 待たされている男が舌打ちする。 「早くしろ。あとがつかえているんだ」 「まあ、もうちょっと待て」 言いながら男が奥を突く。 「ぁ、はぁ……っ、」 「長いたちなんだ、俺は」 「ん、あ……」 小五郎は背をそらしながら、 (嘘をつけ) と、醒めた頭で思っていた。彼がすでに中で一度放ったことを、穿たれている小五郎は知っている。よほどそう言ってやろうかと思ったが、あとで殴られるといやなので黙っていた。いつでもこの男はそうだった。繋がると早々に果てるくせに、それでは萎えずに二度、三度と小五郎に注ぎたがる。 (気がつかないものかな) と、何だかんだと言いながら結局おとなしく待っている連中のおめでたさも、小五郎の冷笑(顔に出しはしないが)を誘った。男が放ったせいで、小五郎の粘膜からは濡れた音がしているのに、それを何と思って聞いているのだろう。 (馬鹿馬鹿しい) ただ肉だけを高められて、その熱さに声をあげながら、男たちに気づかれないようそっと溜息をつく。 (あと二人か……) 七つまでには終わるか、と胸算用して、あとは濡れた肉の奥にあたえられる感覚を追おうとした。納屋の黴くささに男たちの汗の臭いがまじり、それがいつまでも鼻腔を刺して、なんだかへんに目が痛かった。 そうして嬲られるようになって、何日めのことだったろうか。 その午後小五郎は、顔もよく知らない男に高だかと両脚を抱えられて、無理な姿勢で深く受け容れさせられる刺戟に、激しく首を振って身悶えていた。 「ふ……っ、ぁ、」 体の奥で男が容積を増す。動きが早くなり、回りで見ている男たちが次に自分がまぐわう期待に息を呑む気配がする。 (もう、終われ) と思ったとき、小五郎は一瞬、自分が雷に打たれたのかと思った。 外は、雨ではなかった。 が、急に轟いた大きな物音と、入りこんだ光の眩しさに、 (ああ、やられた――) と、とっさにそう思ったのだった。 落雷を受ければ、人は死ぬだろう。小五郎も、もう自分が死んだものかと思った。それは恐ろしい瞬間であったはずなのに、なにかしずかでやすらかな喜びの掌に、そっとすくいとられるような気がしていた。 それは知らぬまに恐れ、待ち望んでいた瞬間だったのかもしれない。自分は今にきっと罰せられるにちがいないと――罰せられねばならないのだと、いつの頃からか感じていた。 そうであろう。 あれほど大崎を傷つけた自分に何の咎めもないものなら、天道は非である。そういうおそろしい世界に、小五郎は平気で呼吸ができるほど強くはなかった。だからきっと今に自分に天罰がくだるのだということを、いつしかほとんど唯一の救いのようにして信じていた。 すべてあきらめたといいながら、結局それは、自分のしでかしたことを誰かに裁いてもらいたいという、子供らしい甘えであったのかもしれない。 しかし、一瞬ののち、小五郎は、あいかわらず健康に脈打つ自分のからだと、やはりそれがあいかわらず男と繋がっている姿を発見した。 (なんだ……) と溜息をつきかけたとき、 「何をしている」 割れるような大声が、黴臭い空気をびりびりと震わせた。 「う……、」 男がずるりと自分の中から出ていく感触に、小五郎は眉根を寄せて耐えた。 轟いた音は雷鳴ではなく納屋の戸を蹴破る音で、差し込んだ明かりは稲妻ではなく外の光だった。 闖入者の存在が、さっきまで淫欲の舎(ひとや)であった納屋の空気を一変させていた。 響きわたった大声に男たちはいっせいに立ちあがり、小五郎を犯していた男も、遅れてそれにつづいた。 「なんだ、お前は」 ひとりが叫んだが、その声がすでに臆している。逆光でしかとはわからないが、戸口に立った男の影は大きかった。 「俺か」 と影が答える。 「俺は八組士来原良左衛門が嫡子、良蔵盛吉である」 「来原……――」 つぶやいた誰かの声が狼狽している。いまいましげに舌打ちするものもあったが、その音さえどこか相手の聞こえを憚っているふうであった。 「俺は名乗ったぞ」 と、影はいう。 「貴公らも名乗るのが礼というものだろう。もっとも、人面獣心の痴れ者どもが、人の世の礼など知るまいがな」 「驕るな、来原」 「俺は驕ってはおらん。ただ君に仇なす不忠の輩を糺しに来たまでだ」 のっしりと重たげな音を立てて、彼は納屋の内へ踏み込んでくる。小五郎はようやく身を起こしていた。そうして眩しさをこらえながら、夏の陽を背に浴びている男の姿を見つめた。 (来原――……) ぼんやりと、その名に聞き覚えがある。 (たしか御養子ではなかったろうか) 事情通の友人がそんな噂をしていた。自分も養子だからというのでもないが、小五郎は何とはなしにその名を記憶していた。年稚(わか)いが硬骨漢で、他日かならずひとかどの人物になるといわれていることも――。 その来原が、自分が陵辱されている現場へ突如踏み込んできた。そのことの実感がわかずに、小五郎はただうつろに、 (お仁王さまのようだな) 肩の怒った大きな影を眺めていた。 「なに、不忠」 男たちが言い返す。 「不忠とはなんだ」 「不忠ではないか」 男たちの声が上ずってかすれているのにくらべて、来原の声はあくまで朗々としている。 「藩校は公領である。その敷地内で不埒の所業に及ぶとは、藩公に対し奉ってはなはだ不敬の至り。かつ学業にも懈怠の心が見える。藩士の子弟がその業を怠るは、君に忠ならざるゆえんではないか」 「黙れ!」 「いいや黙らぬ。もし黙らせたくば、貴公らが己の過ちを詫び、二度と卑怯不埒の振舞におよばぬと、洞春公以下御歴聖の御霊前に誓われよ」 「貴様ァ」 来原の口吻は決して挑発がましくはなかったが、相手はあまり頭のよくない男たちのことである。かっと血をのぼらせて、彼につかみかかった。 が、 (ああ、これは) と、喧嘩が得手のほうではない小五郎も、男の構えと、それを迎える来原のようすに、次の瞬間の光景が容易に予想できた。 (かなう相手ではないな) 小五郎はそのときにはようやく乱暴に披かれていた襦袢の襟をかきあわせていた。それでもなお呆然として、ひとごとのようにかれらのあらそうさまをながめていた。 果たして、飛びかかっていった男は苦もなく来原に払い倒されて、床に転がった。呻く男を跨いで、来原はさらに中に入ってくる。 「待て、」 と言ったのは、いちばん年長の男だった。ひょろひょろと丈ばかり高くて鼠のような顔をしたその男は、髭の剃りあとの青黒い口辺に、卑屈な笑みを浮かべている。 「待て、貴様は何が望みだ」 「望み?」 来原がじりりと一歩踏み出す。男が後ずさる。 「不忠がどうとか言ったな。祭酒様に言いつける気か」 「さて、それもよかろうが。貴公らをふん縛って門前に晒しておくのが先だ」 「そんなことをして何になる」 男は来原をふせごうとするように、顔の前に手をかざした。来原はかまわずにすすんでくる。彼の背に差す光に慣れた小五郎の目が、しだいにその精悍な顔だちをとらえだす。ぎろりと男をねめつけた両眼に、憤怒の色が浮かんでいた。 男は、やはり、馬鹿なのだろう。 「お前、どうしてここへ来た。ん?」 すでに宥めるような口調にかわっている。 「お前も、あれだ。話を聞いてきたのだろう。加わりたいのならかまわんから――今日のところはお前に譲ってやってもいいから、短慮はよせ」 そういわれたとき、来原はすこし笑ったように見えた。それに安堵したのか、男の体から力が抜けたのが見てとれる。が、次の瞬間、憐れな痴人の体は、来原の猛烈な一撃を受けて横ざまに飛んでいた。 「この俺を愚弄するか」 来原の大喝に、納屋の柱も震うかとおもわれた。 「いいか、貴様も俺もすでに成人している。一個の士である。士を辱めるからには、相応の覚悟があるはずだが、どうか」 「しょ、正気か、貴様」 殴られた男は気絶したのだろう、仰向けにひっくりかえったままぴくりとも動かなかった。かわってべつの男が来原を制しようとする。 「覚悟などと、それは、」 男の声はみじめに裏返って、女のように甲高く響いた。 「この場で斬りあうと言っているのか」 「そう聞こえたか」 「ほかに聞きようがあるか」 「ならばまだ貴様も完全な腑抜けではないということだな。褒めてやろう」 「ふざけるなっ」 男たちはだんだんひとかたまりになって、納屋の隅へ追いつめられる。来原の姿はさっきよりもいちだんと大きく見えた。その湧きあがる黒雲にも似た影にむかって、男たちは痩せた犬のように吼えている。 「そんなことをして、貴様……貴様もただで済むと思うな」 「俺はいつ何をするにも、つねにただでは済まぬ覚悟をしているさ。貴様等とちがってな」 来原はあくまで落ち着いて、しかし満腔の瞋りをたたえて言った。 「俺はここで貴様等と私闘に及ぶのではない。御歴聖の訓えを穢す奸賊ばらを討ち果たすのだ。あるいはそのことで責めをうけてもかまわぬ。そもそも士は忠君を生業として禄を食んでいるのだ。貴様等の不義不忠を見つけた以上、ここが俺の働きどころではないか」 どうだ? と来原が右足を一歩踏み出す。彼の左手のなかで鍔がかちりと鳴った。 「き、貴様は狂人だ」 こうなると、男たちは機敏であった。一人が来原の脇をすりぬけると、皆それにつづいて、一散に逃げ出した。あるいは敷居につまづいて転んで、泣きながら駆けだしていった男もあった。その丸めた背中がいやに小さく見えて、小五郎は、今まで大人の男のように思ってきたかれらが、ひどくあさはかで非力な少年にすぎないのを、今さらのように発見した。 それにひきかえて――。 来原は、べつにあとを追おうともせず、逃げ散るかれらをだまって見送った。悲鳴と足音が遠ざかると、彼はゆっくりと小五郎にむきなおった。 前をかきあわせながら、小五郎は膝だけで後ろへさがった。下肢に力が入らないのは、男たちに嬲られたせいばかりではない。 来原が、小腰をかがめるようにして顔を覗きこんでくる。小五郎の表情を見さだめようとする目は、男たちの見せかけの威勢とはちがって、ずぶりと骨を貫くような光を湛えている。 こわかった。 来原の眼は、正しいもの、強いもので深くかがやいていた。 (灼ける――) 焦げつくように、胃のあたりがくるしかった。同時に、凍えるほど冷たいものが背骨のなかを駆けた。 来原の眼に、射殺されて死んでしまうと思った。彼はひとことも自分を責めはしないのに、その凛乎とした道義に燃える眼は、きっと自分の不潔を焼きはらわずにはすむまいと思った。 来原の堂々たる体躯よりも、男たちを大喝した声よりも、小五郎はただ、彼の峻厳な正しさが恐かった。すでに不義と不徳にまみれた身は、彼が戛と叫べば砕けて散るだろう。 (――いっそ……) 殺されてしまいたい。 そのとき小五郎はまだ、救われたとは思っていなかった。今まであたりまえのようにつづいてきた陵辱の日々が、簡単に断ち切れようはずはないと思った。だが、一度闖入者の存在によってそれが中断されたことで、あたかも回転を止めた独楽が倒れるように、今日までの疲労が一気に彼を襲った。 だから、もう、この場で殺されてもいいと思った。 それなのに、夜行獣が日の光をおそれるように、小五郎の体はひとりでに後ずさる。 「なぜ逃げる」 来原の大きな手が、小五郎の腕をつかんだ。 「――――」 返事もできない。彼が今さっき何を見たか、いちばん知っているのは自分ではないか。 すいとその体がしゃがみこんだとき、小五郎はおもわず両眼をかたくつぶった。 ――だが。 「大丈夫か」 それが彼の声かどうか、小五郎には一瞬わからなかった。口調は無骨だが、それはさっき男たちとやりあっていたのとはちがう、やさしい声だった。 「だい……?」 目をあけると、来原の顔がある。彼の両眼はやはり正しい光をたたえていたが、その光は決して小五郎を傷つけはしなかった。殷々とこだまするような深いかがやきが、凍えた背を強く抱きとめてくれるのを感じた。その光のなかでようやく久しぶりに本当の呼吸ができたと思ったとき、 「あ――――――――」 どくんと大きく脈打つように、抑えつけていた感情が、体の奥の見えない膜をやぶって息を吹きかえした。瞬間、小五郎はその圧倒的な重量に耐えきれず、両の鬢のあたりを手で覆った。 ――――こわい。こわい。 来原がではない。溢れだした歎きと厭わしさとやるせなさが、その激しい奔流が、頭蓋を打ち砕いて自分を押し流すかにおもわれた。 壊れる。 本当はとうにもう、壊れていなければならなかったのだ。 しかし臆病な自分は、それがこわさに、ただ黙して堪え忍ぼうと思った。そればかりではない。その汚辱の日々のなかに、快楽を見つけさえした。そうしてその行いは陵辱なのだと、自分は抵抗できないのだと、自分のなかに言い訳をかまえていた。 ――大崎まで、汚して。 割れる。頭が割れて微塵に裂け散りそうだった。 と。 「大丈夫だ」 大崎の手が肩に置かれた。 (な……にが……――) びくりと撥ねあがりそうに背をふるわせた小五郎は、その言葉の意味を問うように、目を見ひらいて来原を見つめた。 「大丈夫だ」 と来原がもう一度言った。そのまなざしは底深い、なにか肉の厚い感情を湛えていた。それは単純な慈しみや、ましてや同情や憐憫というのともちがう、鳩尾のあたりをぎゅうぎゅうと締めつけるように粗野な、しかしふしぎとなつかしい感じのする眼だった。その眼の光につつまれて、小五郎は安堵しながら、一方でひどく息苦しくて、肩を上下させながらはげしく呼吸をしていた。 「もう心配しなくていい。連中に何もさせはせん」 理由は一切いわず、小五郎にもなにも問わず、来原はただそれだけ、きっぱりと言い切った。その声は若者らしく明朗であるのに、どこか歯軋りするような重さがあって、彼のことばをいっときの慰めではない、信実のこもったものに変えていた。 「私、は……――」 ああ、解放されたのだろうか。 小五郎は無意識に自分の太腿をそっと撫で、床の上に座りなおした。 (もし、そうだとしたら――) 来原のいう「大丈夫」ということが本当なら、それを最大限に都合よく解釈するなら、小五郎はもう、男たちに犯されることはないのかもしれない。それは小五郎が、あの破瓜を強いられた夕以来、ずっと待ちのぞんできたことだった。 だが―――― (これが、その日なのか) 小五郎の胸によろこびはわかなかった。むしろ新たな絶望が――犯されているあいだよりも深い裂け目が、暗く口を開けて小五郎を見つめていた。獣欲に貫かれて傷ついたのとはちがう、さらさらと清冽な肌ざわりのする血が、自分の奥深くで溢れて流れるのを感じる。 たとえ今日以後、姦されなくなったとしても。 それはゆるされることとはちがうのだと、骨に錐を打ちこまれるような鋭さで小五郎は思った。だとしたら、今解放されることに何の意味があるというのだろう。 (ああ、割れる) 鬢の毛をかきむしるように頭をおさえて、小五郎はそのまま意識をうしなった。 目を醒ましたときは、和田の家の、小五郎にあてがわれた居室の布団の中だった。 「どこも悪くはなさそうだが」 枕上に座って脈をとっていた父が言った。 「どうも、ずいぶん疲れているようだな。近頃、どうかしたのか」 父はすでに六十を超す老齢である。唯一の男子である小五郎を格別に思い、かつその体があまり丈夫ではないことに日頃気を揉んでいるのを、小五郎自身もよく知っている。他家へ出した手前、父は口に出してはそういうことをいわなかったが、ことさら淡泊をよそおってみせる言動のうちにかえって深い父の慈愛を感じて、小五郎は特に自分が臥せっているときなど、なにやら父に申し訳がなく、どうしようもなく切なくなることがあった。 まして、今日のような倒れかたは、理由が理由だけに不孝のいたりであろう。 「暑さが、苦手でして」 額に載せられた濡れ手拭いに手をやりながら、小五郎はようようそれだけ答えた。 「暑いのは誰でもおなじだ」 父は腕組みをした。 「弓馬の家を継ぐ者が、そう軟弱なことではいかん。お前はすこし鍛え足りぬのではないか」 言葉では厳しいことを言っているが、息継ぎの間にすいと風が入りこむほどのかすかな気配で、小五郎は父のなみなみならぬ心配を察することができた。そのあたたかさに、喉の奥がぐっと苦しくなる。 「しかし、何だな、」 父はちょっと表情をやわらげて、 「来原の良蔵さんというのは、なかなか見上げたお人ではないか。お前、ああいう人とつきあいがあったのか」 「……はい」 小五郎は小さくうなずいた。来原のことについては、どう答えてよいものかわからない。昨日唐突に自分の意識の中へ入りこんできた彼の像を、まだどんなふうに結んだものか見当がつきかねていた。なるほどその邂逅はこれ以上ないほど印象の色彩の濃いものにはちがいなかったが、悪縁といえばこれほどの悪縁もないであろう。 無論、来原は恩人なのだが。 「おひきとめしたが、病人の体にさわるといけないといって、帰ってしまわれた。――お前、あの人に送られて帰ってきたのを覚えているか」 「ぼんやりと、ですが」 小五郎は今まで完全に喪神していたわけではない。一度は意識が途切れたが、その頬を来原に叩かれて起こされたのである。 『起きられるか。起きられるものなら起きろ』 彼は小五郎の脇の下へ首をくぐらせ、片腕を肩にかけて体を支えた。 『いいか、俺が支えてやるから、歩けるところまではどうにか歩け。そっちの手に刀を……お前のでは短いな。俺の大刀を貸してやるから、これを杖にして――曲がりはせん、お前の体重ごときで曲がるものか。いいからこう……そうだ』 おぶってやってもいいのだ、と彼は言った。叩いても起きなければそうしたのだと。 『しかし、お前も武士の子だろう。昼日中からだらしなく伸びておぶわれて帰ったとあっては、体面にかかわる。辛いだろうが、ここはこらえて歩け』 小五郎は熔けた鉛のように重く濁った意識のむこうに、わずかに外光が洩れるのを見る思いで、来原のことばを聞いていた。その意味を咀嚼できるほどの力は残っていなかったが、ただ何かひどく新鮮な感じを注ぎ込まれた気がして、よくわからないままにこくりと頷いた。 そうして、錆びた血に軋むような心身をひきずって、どうにか家まで歩ききったのだった。 (どういう人なのだろう) 剛直の男だ、烈士だといううわさは聞いてはいる。あの納屋で見た彼のようすはいかにもその評判にふさわしかった。 (だとしたら、あの人は) どうして自分を憎まないのだろう、と思った。 自分とまぐわった男たちは、来原に痛罵され、殴られ、逐いはらわれた。「不忠者」「礼を知らぬ畜生」とまで、彼は極言した。なるほどそのことばにうたがいを挿む余地はないであろう。しかしだとすれば、小五郎もまた畜生でなければならなかった。 それも、あるいはかれら以下の涜武弑逆の禽獣であろう。 聖賢の訓えを学び、藩祖以来歴公の御霊を祀る藩校の敷地を穢した罪はおなじでも、それを能動的におこなった側よりも、いかにも強いられたという顔をして、そのくせそこに快楽を得ることをおぼえ、ひそかに貪っていた自分のほうが、よほど卑怯というものだろう。 そのうえ、と、小五郎はそれをほんのわずか思うだけでも、全身の膚(はだ)がぞわりと粟だつのを感じた。 男たちに嬲られながら、いつでも小五郎は、意識の片隅でそのことを考えていた。 みずから叱り、否定し、追い出したつもりの思いが、快楽にぐずぐずと体が溶けていくうち、じわりと染みがひろがるように心にうかぶ。 ――大崎に、抱かれたい。 あのかなしい交わりを、その痛みを癒すために、小五郎はふたたび抱きあう以外のすべを思いつかなかった。無論それは大崎の知ったことではない。彼は絶対にそれを望まないだろう。 しかし小五郎はもはや喪ったものをとりもどすよりも、今このときの苦痛を、大崎にあたえられる悦びによって逃れたかった。そう思うことがすでに大崎を辱め、傷つけているのだと知りながら、恍惚の境にある意識は、その欲望を止められなかった。 いま自分の体を貪っているのが大崎であったなら。 そう思うごとに小五郎の体は妖しく蠢き、男たちをよろこばせた。深く大きく貫かれて、小五郎もまた愉悦の声をあげた。 そういう、自分を。 まさか大崎のことは知らぬまでも、男たちに組み敷かれて苦痛一方ではなかったことは、あのとき現場を見た来原にはわかっているだろう。それでも、彼が自分を責めようとしないのは、どういう了見なのだろう。 (わからない、何も) ひどく息苦しい感じがして、小五郎は布団をはねのけた。見上げた天井に、あの染みがある。人の顔のかたちをしたそれは、滲む視界にゆらゆらと揺れうごいて、今にも何か言ってきそうで、小五郎は固く眼をとじると、寝返りを打って障子のほうを向いた。とじた瞼にも外の光が映って、そのまぶしさに、眼の奥がじんじんと痛んだ。 PR |

