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【2026/04/05 02:34 】 |
モブ×桂(1)
拍手ぽちぽちありがとうございます。

モスクワ行のときは英国マフィアだったけど
ミャンマーのアレも捨てがたいな、とか私が
例の昭和の仁侠みたいなグラサン画像あつめてニヨニヨしてるあいだに
ほも協会はとんでもないものを投下していきましたね。

露天風呂だと……? 露天風呂だと……!?

しかもお湯が澄んでて遠目にもおみあしクッキリだったわけですが、
2人とも手拭は首に巻いてたじゃないですか。
それが温泉のマナーだろといわれればそれまでですが、
しかし何ですね、あのお湯では互いに丸見えですね。
まあ本番ではカットされてしまいましたがむしろ2人的にはあの後が本番で、
澄んだお湯が濁り湯に変わったことでしょうね。ええ。

そういう至高の萌えを糧にですね、私は今日も要らんことを考えております。
それで、以前なんだかごにょごにょ言っておりました
鬱展開な連載を開始したいと思います。
だいぶん妄想度合がひどいです。モブばっかりです。
おまけに名前つけるのさえめんどくさかったという、
もう何がしたいんだかわけがわかりませんが、とりあえずあと4、5回続きます。
多分。


以下、よみものでございます。

「誰がふみそめし」
 彼はいつでも、顎の先が透きとおりそうな白い膚(はだ)を、胸いっぱいに抱えた書物の黴くさい表紙のうちに匿していた。そうしてただ、外界のけばけばしさに戸惑うようにそっと肩をすくませて、あわく笑っているのだった。そういう印象の少年だった。
 小五郎が初めて彼を見たのは、藩校の大廊下だったろう。まだようやく素読ができるようになった程度のかれら初年生のあいだでも、大崎某といえば、明倫館の麒麟児としてその名は響いていた。
「あれが、その大崎さんさ」
 消息通の友達に袖をひかれて彼の顔を見たとき、小五郎はまださして興味もなく、ただ自分とはまるで遠い世界にいる人を見る思いで、
 「ふうん」
 と小さくうなずいたにすぎなかった。
 
 その頃、小五郎は藩校へ通うのが決して好きではなかった。
 彼の向学心の芽ばえはどちらかといえば晩いほうで、多病の合間をつなぎあわせるようにしてどうにか少年期にさしかかったその当時は、小鳥を飼ったり、日がな庭を眺めたりしているほうがよほど慰めになった。それで、講義をうけていてもあまり熱心ではなく、日ごと持ち帰らされる課題もひたすら苦痛の種であった。
 (こまったな)
 と、ある日の彼は、松本川の土手に腰を下ろして、ひろげた教本の余白に、くろぐろとゆたかな前髪を押しあてて溜息をついた。
 「桜井ノ訣別(わかれ)」
 それが今日、藩校で課された宿題であった。楠公父子の別れについて詩を賦して来いという、その題はいかにも陳腐だが、しかし題そのままに陳腐な作を提出しては及第点がもらえない。
 (作詩は、苦手だな)
平仄もととのえられるかどうかあやしい程度の実力しかない小五郎には、どうにも気が重かった。
「桂君」
と呼びかけられたのはそのときである。まさしく玲瓏とよぶのがふさわしいその声におどろいてふりむくと、あの大崎が、やっぱりはにかむように微笑んで、小首をかしげながらこちらを見つめていた。
 
大崎と言葉をかわしたのは、そのときがはじめてだった。
藩費で寄宿舎住まいをしている居寮生の大崎とはちがって、凡庸な入舎生でしかなかった小五郎は、評判の秀才に話しかけられたことですっかりあがってしまい、
「腹でも痛むのか」
そう言いながら横へ腰を下ろした彼に、ついいわでものことを早口でしゃべってしまった。すなわち、今日の課題のこと。作詩が苦手なこと。
すると、
「ああ、土屋先生のご講義か」
それは、むつかしい。大崎は小五郎のおおげさな難渋をべつに笑いもせず、おだやかにうなずいた。
「しかし、草案くらいはできているんだろう。見せてみないか」
「ですが……」
「まあ私もあまり巧くはないがね。平仄くらいはなんとか……」
さしだされた手に、小五郎は畳んだ半紙を懐からとりだして、おずおずとあずけた。かすかな音をたててそれを披いてゆく大崎の指は、繊(ほそ)く、白かった。
「君は、なかなか蹟(て)がいいな」
すでに声変わりをした大崎の、大人の男とおなじ低い声がそう褒めてくれたのを、小五郎は頬を赧らめて聞いていた。
 
それから、大崎と親しくなった。
親しいとはいっても年がちがうから友達のようではないのだが、彼は何かと小五郎を目にかけてくれたし、小五郎も学課でわからないことがあればまっさきに大崎に尋ねた。そのうちに、あまり簡単なことを尋ねて彼にあきれられてはと思い、家での温習にも熱心になった。少しずつ、小五郎の修学はすすんでいった。
だが口試に答えられるようになったり、答案に朱を入れられる数が減っていくことよりも、小五郎は大崎と話をできるのが嬉しかった。はじめはただものを教えてくれるだけだった大崎が、近頃では時おり、「君はどう思う」と訊いてくれる。彼と語りあうに足る相手に、自分が歩一歩近づいてゆく実感が、何よりの喜びであった。今にもっと学問を積んで、背丈も伸びて、声も低くなった自分が大崎と肩をならべる姿を、夜眠る前、ひそかに夢想した。そうしてそのこそばゆさに、いつもきまって途中で空想をうち切り、布団を頭までかぶってしまうのだった。
少年の日は、甘くやわらかに明けては暮れた。思えば、あの頃がもっともしあわせだったろう。体が成長するごとに、また何かを知るごとに、世界がひとつずつ手にはいるような気がした。自分の目の前にあった淡い色の霧が、少しずつ霽れていくような感覚だった。
大崎を嫉視する連中の存在に気がついたのも、その頃だった。
講堂の裏手で、彼に素読を見てもらっているときだった。人の声がしてふり向くと、体の大きな男と、その取りまきらしいのが全部で五、六人、肩をそびやかしてこちらに歩いてくるのが見えた。
(ああ、)
と、小五郎はいささか鼻白んだ。中央で肥った胸を反らせている男――といってもほんの少年なのだが、稚い小五郎には大人の男に見えた――の顔に、見覚えがある。
『かかわりあいにならないほうがいい。俺の兄がそう言っていた』
と、いつぞや同じ齢ごろのなかまにおそわったことがある。
(御重役の家のひとなのだったな)
門閥に生まれついたが、出来はあまりよろしくない。ただ気位ばかりは家柄相応かそれ以上で、そのために下の者とみれば、その「下」なるものが家格でも年齢でも、とにかくいたぶらねば気のすまぬたちで、まあつまり、あまり品性上等な男ではない。その男に似たような気質の男が腰巾着のようにくっついて、一党をなしている。身なりばかりはぞろりとした上物の着物に凝った拵えの大小を佩いているが、何のことはない、市井の破落漢(ごろつき)とかわらないのだ――小五郎のなかまの兄は、そういうふうに弟に語ったらしい。
その語り口には私怨めいたものがふくまれているにしても、しかし、かれらについてなにほどかの真実を伝えていることはまちがいなかった。
現に、いま小五郎と大崎の目の前にあらわれたかれらの表情は、若者らしくもなくいかにもすれて、卑しく見えた。
博徒の世界ならば親分とでもいった格の例の男が、大刀の柄に両腕をもたせて、酔漢のようにぶらり、ぶらりと歩をすすめる。肉のだぶついた頬には、なにやら意味ありげな笑いを上せていた。
かすかに鼻唄をうたいながら、彼は乾分(こぶん)をしたがえて歩いてくる。そうして、ちょうど大崎の前をすぎようというとき、朗々と声を張ったものである。
「白虹、日を貫けり」
と。
その声音といい、節回しといい、あとから思いかえしても憎らしいほど、冴えてあざやかであった。
彼が急に高声によばわったことにおどろいていた小五郎と大崎は、一瞬ののち、放たれた語句を聞きとると、今度はその尋常でないのにはっと蒼ざめた。特に大崎の衝撃は深いようであった。
(顫えて……)
と、小五郎は、彼の唇がかすかにわなないていることに気がついた。けれど彼のそのおののきと苦衷をどうしようという思案もわかぬまま、小五郎はただ狼狽していた。
男の朗詠は、その時宜といい大崎の反応といい、あきらかに大崎へむけられたものであった。だが、なぜ大崎がそんな侮辱を――というよりもほとんど讒謗をうけねばならないのか、小五郎にはまるでわからなかった。
当の男のほうをふりかえると、彼はいかにも得意気にふんと顎を上向けて、さらに言った。
「さて、お側へ上がって何をし奉る気でいるやら……」
すると申し合わせたように取巻連が唱和して、
「いや、恐ろしや、恐ろしや」
と笑いさざめく。
大崎の顔はますます蒼白になった。
(お側へ……?)
小五郎は、彼ひとり蚊帳の外であることに奇妙な寂しさを感じながら、男の言葉の意味を考えていた。
(お側――)
それはおそらく、君公のお側ということなのであろう。そういえば近々、大崎は学業卓抜を認められて、御進講に上がる予定になっていた。そのことであろうか。
と、連中はさらに面白げに、そうして憎体に言いつのる。
「しかしいくら学問に精励しょうとて、忠義が足らぬではなあ」
いやに大時代な調子をつけて、あたかも芝居の台詞のようであった。
「げに、そのことよ。何というても血はあらそえぬ。尊氏の裔(すえ)はやはり尊氏であろうのう」
「ははあ、恐ろしや」
役者の身ごなしのつもりでもあるのか、かれらは妙な手ぶりをしながら、小五郎と大崎の前を行きすぎていった。癇ばしったような高い笑い声がひどく耳について、小五郎はぞわぞわと肩をすくませながら、大崎の顔をぬすみ見た。
彼は怕いほど感情の殺げた眼を遠くに投げやって、絵巻物の公達のように美しい顔を、白くしずかに保っていた。
 
「悪かったね」
と大崎が言ったのは、その日の日暮れどきであった。
あのあと、ぎこちないままに稽古を再開したかれらは、互いに聞かず語らず、さっきあったことは忘れたもののようにふるまった。そうして小五郎のほうはもうなかばほんとうに忘れようとしていたとき、大崎が不意にいったのである。
「君に嫌な思いをさせた」
と。
そうして深く溜息をつくと、肚の底から吐き出したもののために重心をうしなった体がひとりでに尻餅をつくように、すとんとその場に腰を下ろした。
「いえ、私は……」
袴の裾を払い、人ひとりぶんの間を空けて隣に座りながら、小五郎は何とはなしに大崎の顔を見るのをおそれて、自分の膝に目をおとした。彼の側にむけた頬が、ちょうど夕日を浴びてちりちりと熱かった。そのいささか過敏になった膚(はだ)を撫でるように、彼の声がやわらかに互いの隙間をふるわせる。
「私の曾祖父は、かつて罪をうけた。――君は知らないだろうが」
私も、知らない。そうつぶやく大崎の声は、内容の深刻であるにも似ずあたたかみを帯びて、どこか懐かしむようですらあった。
「勘定方のお役目についていたのだが、下役がなにかなすべからざることをして死罪になった。曾祖父にも責めなしとはいえぬということで、お役御免の上、一事は士籍からも削られた。父の代になって再仕をゆるされたが、お禄は旧(もと)のようではない。それで、ああいうふうにいろいろ言う人があるのさ」
「あの、では、大崎さんの曾祖父君は……」
さっきあの男が、白虹貫日などと詠じたのは――。
彼のほうを見ると、彼は夕日の中でまぶしそうに小五郎を見かえした。
「謀叛ともなりかねぬたぐいの企てを見過ごした、というのだね。罪状はあくまで過失ということだが、あるいは故意に見逃したのではないかという人もある。――私は信じてなどいないが」
「それは、」
と、小五郎は息をはずませた。
「それは、そうです」
夕日の朱に滲む彼の顔が、いつにもまして美しく、悽愴なほどにおもわれた。
(そんなことが――)
長い睫毛がかたちづくる濃い陰翳が、彼の頬の上で揺れている。小五郎はそのおさない心のうちに、大崎家を襲った艱難と、生まれながらにそれを背負ってきた大崎の、ひとにいえぬ苦しみを思った。
彼は、大崎の家の嫡男である。だからこそ、これほどまでに学業に熱心なのであろう。学問を足がかりに、いつか家を再興するつもりでいるのだ。自分よりは年上であるとはいえ、まだほんの少年にすぎない大崎が――。
「大崎さんがそういうなら、そうです」
もろもろの思いがわきおこるのをおさえかねて、小五郎は、大崎がいう曾祖父の潔白に賛意するむねを、つたない言葉でそうさけんだ。大崎はそれをいいともわるいともいわず、ただわずかにさびしげに微笑んだだけだった。
「あいつらは、どうせなんにもできないから」
そのさびしい陰翳をどうにかぬぐい去りたくて、小五郎は咳き込むようにつづけた。
「大崎さんの才が妬ましいだけのさもしいやつらです。学問だけじゃない、品位においてすでに数等劣っています」
「君は、」
のめりこむようにして身をのりだした小五郎の両の肩を、大崎は白い手でおさえた。
「君はあまり、そんなことをいわないほうがいい」
赤い唇はふっくりとした笑みを上せているのに、どうしてそれがこんなにも、薄幸そうに見えるのだろう。
「どうしてです」
つかまれた肩のぬくもりを、かすかな痛みにも感じながら問うと、
「似合わないからさ」
落日の最後の光芒を浴びて微笑む大崎は、なにか生身の人というよりも目の前に架けられた画(え)のようで、そのふたしかな感じが肩につたわる重さと温度とにどうにも噛みあわず、小五郎を落ちつかない気持にさせた。
 
気をつけて観察するようになってみると、大崎へのいやがらせは、陰に陽になかなか執拗なようすだった。年長で学術優等の彼とは小五郎は滅多に同座して学ぶことはないから、そのいちいちについては今も知らないままだが、毎日の課業が果てて後、大崎と話をしていると、やっぱりあの日のように面白くもないあてこすりや嘲弄をうけることがままあった。
「気にするな」
と大崎はいう。
「君が怒ったり塞いだりするようでは、私がいたたまれない」
そういうので、小五郎もなるべく相手にならず、冷淡に受け流すようにはしていた。
だが、そのせいであったのかどうか――かれらのいやがらせは、いつの頃からかしだいに性質を変えていった。
大崎ひとりの場合のことは知らないが、小五郎が一緒にいるとき、かれらはあまり尊氏がどうのなどとはいわなくなった。そのかわり、
「今日もひょろひょろと青い顔をしているなあ」
「秀才先生は未だに悪所もご存じないんだろう」
「女を買ったところで、あのご面相では買ったものか、買われたものかわからんからな」
きまってそんなふうに言ったあとは、なにやら隠語めいたものを、さかんに笑いさざめきながら囃したてた。小五郎にはよく意味のわからないこともあったが、しかしかれらのようすから、どうも卑猥なことを言っているらしいと察せられた。
「大崎さん――」
これではあんまりだと、小五郎は思った。
「どなたか、しかるべき方に御相談なさってはいかがです」
連中の悪ふざけは目にあまる。第一、聖賢の訓えを学ぶ藩校で悪所の話をするなど、明倫館創建の理念にも、藩士の子弟としての心得にも悖るではないか。藩校の教授なり監督なり、責任のある大人に話を通じて、きちんと罰してもらったほうがいいのではないか。
しかし大崎は、
「私は子供ではないよ」
そう言ってさびしげに笑うばかりだった。
 
まるで相手にならないのだから、からかうほうもすぐに退屈しそうなものを、例のかれらはよほど暇なのかそれとも頭が悪いのか、いつまでも飽きずに絡みつづけた。
――否、本当はもしかしたら、このころからかれらの目的は、すでに大崎をなぶることから離れていきつつあったのかもしれない。からかいの内容が変わったことにつづくかれらの小さな変化は、大崎と連れ立って歩いている小五郎へ、ときどき揶揄の矛先を向けるようになったことだった。
「おい、大崎に就いて、何を習っている。茶坊主の作法か」
「こいつの真似をして腐儒になってもつまらんぞ。やめておけ」
小五郎は無論不快であり、また自分よりは声も体も大きなかれらが恐ろしくもあり、唇を噛んでうつむいたまま、一言も返事をしなかった。言い返そうかと思ったことも何度かあるのだが、はじめにかれらがそういう態度に出た日、
「よさないか」
不意に大崎がぴしゃりと言ったのである。
「桂君には関係ないだろう」
いつもは何を言われても、聞かざるがごとく悠揚とかまえていた大崎のことである。相手も一瞬、面喰らったようだった。それでも黙ったのはほんの少しの間のことで、また何やかやと因縁をつけたのだったが、しかし小五郎は、大崎が初めて見せた険しい表情に、おおげさにいえば胸の顫えるような感じをおぼえた。彼自身が聞くに耐えないような侮辱の言葉を浴びせられているときは一切の反駁をしなかったのに、ひとたび小五郎が標的になるや、眦を裂いてこれを叱ってくれたのである。
以来小五郎は、なにをいわれても黙っていることにした。そうして大崎がかばってくれるのを、露骨に期待したわけではないが、やはりどこかで待っていた。時に、大崎と二人で話をしているとき、今ここにあの連中があらわれて自分を罵ってくれないかと――そんなさもしい妄想さえ抱いたことがある。
そういうねじれた甘えと、素性のよくない女のようないやらしい擦り寄りかたが、結果として大崎をああまで追い込んだのだと、これはずいぶんあとになってから気がついたことだった。その当時の小五郎は、いかにも幼稚で、無力で、何の考えもなく、大崎の羽交いに守られるよろこびばかりをただ思っていた。
 
大崎は、そういう小五郎の甘ったれに対してさえ、ひどく誠実で、かつ寛大であった。
彼は小五郎がからかわれるたびに迷わずその前へ飛び出ていき、人がわりがしたように相手の卑怯を難じた。彼がそうして彼と小五郎の敵とあらそっているとき、小五郎はひそかに甘美なものが胸を盈たすのを感じていた。しかし決して当の大崎にうちあけることはできない、それはうす闇い愉しみだった。
それが突然喪われたのは、いつのことだったろうか。
ある日を境に、大崎はふっつりと、そのいじましい抵抗劇をやめてしまったのである。それどころか、あの連中の姿を見かけると、向こうがこちらに気がついてもいないうちから、
「――行こう」
表情をこわばらせ、逃げるようにしてその場を離れ、かれらとの対面を避けるようになったのである。
「大崎さん」
彼の背にむかってほとんど叫ぶように呼びかけたのは、あるいはかつてあじわったあの陶酔の時間への、あさましい未練であったかもしれなかった。
「どうして大崎さんが逃げるのです」
「どうしてといって……」
陽は、城山の後ろの空を燃えるようにいろどって、刻一刻とその姿を山の緑の向こうに沈めようとしていた。大崎の長く伸びた影が、小五郎の爪先に触れそうで触れない。その距離を保ったままふりむいた彼の表情は、逆光でよく見えなかった。だがやっぱり今日も彼は淡く笑っているのだろうと、その声音から小五郎は思った。そうしてその微笑は、いつもよりすこしだけこわばっているのだろうとも。
「いちいちかかずらっていても仕方ないじゃないか」
「だからといって我々が逃げる必要はないはずです」
「今に殴られでもしたらつまらないよ」
「私はそんなことは怖くありません」
と答えたのは場のいきおいというもので、その言葉が嘘であることを、小五郎自身、よくわかっていた。今までいつのときも、大崎に守られていた自分ではないか。それなのに、なにか得体のしれない怒りのようなものにかられて、熱した舌はつい、きわどい空回りをする。
「こそこそ逃げ隠れをするなんて――」
卑怯だ、とまではさすがにいわなかったが、そのとき小五郎の面上には、そういいたい表情がありありとあらわれていたにちがいない。
「桂君」
わずかに緊張した声をだした彼のうしろで、陽は半ば城山の緑の陰に没しつつあった。折から時期にさしかかった夏蜜柑の色をしたにぶい光が、微笑の消えた彼の顔を、けだるげに照らした。彼は一瞬苦痛の色を眉宇のあたりにうかべ、しかしそれをまばたきにまぎらすと、
「あっちへいこう」
くるりと象牙色の夏羽織の背をこちらに向けて、長い影をひきながら歩きだした。
 
いつか彼とはじめて言葉を交わした河原の土手にならんで腰をおろしたとき、小五郎は下をむいて、口をつぐんでいた。
いわでものことを言った、と思っている。勢いで口にしたことばは、そのいきおいの波が引いてしまうと、ひどく居心地のわるい、苦い余韻をのこすものだった。
暮れなずむ初夏の陽に、川面が照らされている。うつむいた小五郎の視界の隅で、それはちらちらと眩しく明滅する少年の日の光だった。
「桂君」
呼びかけられて、首だけをおそるおそる大崎のほうへ向ける。彼はべつに気分を害しているふうでもなく、ただなにかを決意したらしい、堅く引き締まった表情をしていた。そのときはじめて、小五郎はほんの少しだけ、大崎を怖いと思った。それまで兄のようであった彼が、まったくの大人の男に見えた瞬間だった。
「桂君、私は……――」
という大崎の口吻は、歯軋りするように重く苦しげであった。そうして彼の語ったことは、小五郎をひどくおどろかせた。
 
「私の家の来歴は、君も知っているだろう」
そこから先、大崎は一度も小五郎の顔を見なかった。反対に小五郎は、はじめはおっかなびっくり、しだいに背筋をのばして、彼の横顔を食い入るように見つめていた。
彼の顔はいままでのいつのときよりも蒼白で、長い睫毛が、瞳に深く暈をかけていた。ためにもとから憂いのある彼の眼はよけいに沈鬱に見えた。彼はその眼を陸(おか)に揚げられた魚の鱗のように鈍くかなしげに光る川面へ投げかけ、ときおり癇性にまばたきをした。
「私は、大崎の家に生まれたのは自分の宿命だと思った。かならずこの家の再興をなしとげねばならない。そのために天が自分を遣わしたのだとさえ思った。ずいぶん自惚れているようだが、生きるか死ぬかのぎりぎりのつもりでそう思ったんだ」
笑うかね、と、かわいた風に草木が鳴るような声で問う。小五郎はあわてて首を振った。
「ありがとう。――しかし、今から言うことにはさすがに君も嗤うだろう。嗤ってくれ。大いに軽蔑してくれてかまわない。私は……」
実に卑怯な真似をした、と大崎はいう。
「先だっての考課で、不正をはたらいた」
「不正――」
先日、たしかに経書についての理解を問い、また席題に沿って漢文で論述する試験があった。無論大崎は首席で、誰もその結果について不審には思わなかったが。
(まさか、それが)
不正だったというのだろうか。小五郎にはにわかには信じがたかった。
嘘でしょう、と投げかけた視線から逃れるように、彼は両膝を抱え、そのあいだに首をうずめて、
「私は、焦りすぎた」
ふるえる声でつぶやいた。
「身を立て名を興すには、武芸か学問の二つに一つしかない。私はやっとうのほうはからきしだから、早く学業で藩に認められねばならないと――」
徐々に早くなる口調で、自ら責め立てられるように言った大崎は、しかしそこでふと言葉を句切ると、
「いや、」
緊張を保っていた糸がふっつりと切れるように、息を吐いた。
「家のことは関係がない。家のせいにするのは卑怯だ。――そうだ、卑怯だ。卑怯だから、あんなことをしたのだ」
「大崎さん――」
「私は実に周到だったよ。わざわざ試験に備えて、袖の中へおさまるような、細長い抜き書きをつくったのだ。それを、当日肌着の下へ仕込んで……」
大崎の頬は、濡れてはいなかった。しかし、彼の声は激しい慟哭そのものだった。
「おもえば、いつかそうして及第をかすめ取る日のくることを、私はずっと知っていたような気がするよ。そういうことをする人間というのは、もとから、もう、その程度の品位しかそなわっていないんだ。私はついに、自分の天性に敗れたのだ。乏しい才能のかわりに、私は奸智ばかり磨いていた――」
「やめてください」
小五郎は泣きさけぶようにして、彼の言葉をさえぎった。
「そんなふうに言うのはやめてください」
大崎の告白は、たしかに愕きであった。しかし大崎を、彼自身のいうような卑劣漢であるとはどうしても思えなかった。
「誰にでも魔がさすということがあります。そうでしょう」
「そんな気になることはあるだろう。しかし魔の囁くままに行動する人間というのは、これはもう立派な魔だ」
「大崎さんが、魔ですか」
「魔なんて上等なものでもないな」
「だったら――」
空を染めていた朱が、ようやく褪せて消えていこうとしていた。しだいに蒼白い影そのものになっていく彼の姿がひどく不安で、小五郎は身を乗り出して訴えた。
「どうして私に話してくださるんです。私さえ聞かなかったら、誰も知らずにいたことでしょう」
「私が、知っているよ」
――だから、もう駄目だ。
それは絶望の言葉であるはずなのに、しずかに澄みきって、おだやかであった。
「これから祭酒様にすべて申し上げる。ありのままにお伝えして、御裁断を乞うつもりだ」
「どうして……」
小五郎の視界が涙で滲んだ。彼の不正が悲しかったというのではない。彼の前途が、また彼の真率さがかなしかった。なにやらそれは、どこか正体のわからない涙だった。
「どうして私に話してくださったんですか」
もう一度、おなじことを尋ねた。
 試験の答案は、知識、構文、行論を総合的に採点されるものである。少しばかりの書付を盗み見たところで、それは回答者の多少の安心になったというだけのことで、結果にさほどの影響があったとは思えない。大崎の告白さえなければ、なかったことにできるはずのことだった。
 しかし翻っていえば、大崎がこれこれでございますと自訴して出てしまえば、教授たちも捨ておくわけにはいくまい。おそらく、予定されていた藩公への御進講の話もなくなるだろう。するとことは大崎だけの問題ではない。諸方面に騒ぎがひろまる。
 (だからだまっていろというのではないけれど……)
 なぜ大崎はそれを、まっさきに自分にうちあけたのだろう。それを聞いてしまえば小五郎も、かたちのうえではどうあれ、気持としてはまるで変化なしにはいられなくなるというのに。
 聞かせないでほしかった、と思う心が、しかしそうと口にすることを意志の力で堰き止められて、小五郎の喉を苦くしめつける。もしも彼が、彼のいうとおり卑怯ならば、自分もまた卑怯なのだろう。
 小五郎は大崎の罪を――罪なのだろうか――なるべくささやかな、可愛らしいあやまちだと思いたかった。そう思うことでこれまで大崎とすごした時間を、これからすごすであろう時間を、やさしい、美しいものとして守りたかった。
 大崎には、あるいはそれはさもしさと映っただろうか。
「君は……」
薄闇のなかからわずかな光をひろって照りかえす川面が、大崎の深く翳った瞳に、ちいさなかがやきをあたえていた。そうしてそのかがやきは希望ではなく、ただ彼のきまじめな自刎の意志のためだけに保たれているのだった。
あのとき、彼は小五郎に何をいうつもりだったのか。
そういえばついに聞かずじまいだったと、ずっとあとになってから小五郎は思いだして、ひどく胸が痛んだ。
なんです、と、そのとき小五郎は聞き返そうとしたのだ。しかしそのひらきかけた唇は、突如繁みのなかから突きでてきた大きな手によって、乱暴にふさがれた。
 
松本川の流れは速くはないが、澄んだ水が滔々と川底を洗い、岸を磨している。
あのとき、土手に腰かけていた大崎と小五郎は、たがいの声のほかには、ただ川の音ばかりを聞いていた。それは決して轟くというような響きではないが、流れのきわに立つと、ただこの水のゆくところにのみ人は生きているのだと思うような、ふしぎな肉の厚さを感じさせる音だった。
だから、聞こえなかった。
あの一団が土手を下りてきて、草叢の、ひときわ丈の高いところへ身を潜めてなにごとかささやきあっていた声が。さらにそこからも這い出でて、小五郎たちの後ろに仁王立ちになった、衣擦れの音や息づかいが。
あっと思ったときには、小五郎は自分の口を押さえた太い腕に、その余勢を駆るかたちで引き倒されていた。一陣の風のように沸きおこったその衝撃に、大崎がびくりと腰を浮かせて振りかえる。
「何をしている!」
つづいて大崎が口にした男の名に、小五郎は、自分に加えられた力の正体を知った。
(また、あいつら……)
草の上とはいえ、突然転ばされて背中を打った痛みに顔をしかめながら、小五郎はさかしまになった天を睨みつけた。薄紫色の空をまだらに切り取るようにして、男たちの顔があるいは小五郎を覗き込み、あるいは血相を変えて立ち上がった大崎に向けられている。それは以前から大崎に因縁をつけていた、あの連中の顔だった。
「よせ、何のつもりだ」
大崎が叫んだ。その声の鋭さに小五郎のほうがびくりと首をすくめたのだが、男たちはまるでおそれるようすもなく、
「先手を打って白状したか。八徳居士先生の考えそうなことだなあ」
にやにやと、いかにも濁った底意を蔵した顔で笑いかわしている。
「馬鹿正直というのか、あさはかというのか……。しかしなんだ、大崎貴様、裏切ったな」
「裏切るもなにも、」
と目をむいた大崎の額に、青筋が立っている。初夏の夕暮れのこんもりと湿った空気を裂くように、彼は声を荒らげた。
「裏切るも何も、君たちのしていることは汚い。桂君を放せ」
それまで茫然とことのなりゆきを眺めていた小五郎は、そこではじめて自分が拘束されているという状況の異様さに気がつくと、身をよじって男の腕から逃れようとした。が、すぐにかれらはそれを押さえつけて、
「汚い?」
首領株のひとりが言った。
「汚いなぞと、お前が人のことをいえた義理か。いいか、藩校の御祭壇には、唐土・本朝の聖賢と、洞春公以来の藩公の御肖像が懸けてある。その御肖像の御前で卑怯の振舞におよんだ貴様に、ひとをとやかくいう理合いがあると思うな」
「だから私は名乗って出ると言っている」
「だったらなぜさっさとそうしなかった。俺たちが見たぞといわなけりゃ口をぬぐったままでいた貴様じゃあないか。――いや責めているんじゃない。貴様のそういうところを見込んだといっているのさ」
――なあ、大崎よ。
舌なめずりした男の唇は、気味のわるいほどに赤かった。かれらと大崎とのあいだになにか小五郎の知らないやりとりがあったらしいのを、仰向けに制圧された恰好のままで、小五郎はぼんやりと悟った。そうしてそれが大崎の不正をいわば人質にした難癖であることを察して、ひどく寂しい、悔しい思いにかられた。
下卑た笑いが、男の顔を醜い獣のようにゆがめている。
「おとなしく桂を差し出せば黙っていてやろうというんだ。うんと言えよ。いかにも卑怯な貴様に似合いの盟(ちか)いじゃないか」
「馬鹿を言うな!」
「何もそうかっかしなくたっていい。悪いようにはしないぜ。それともそこまで嫌がるのは貴様、もうこいつと――」
「ふざけるな!」
(大崎さん……?)
そのときにはもう、男たちは小五郎の四肢を押さえているだけで、口は自由になっていた。だが小五郎は一言も発しないまま、ただ虚ろな思いで首をかしげていた。
自分が、どうしたのだろう。
差し出せというのは、なんのことだろうか。
かれらの語っている言葉は経書のそれのようには固くも難しくもないのに、小五郎にはほとんどその内容がわからなかった。
差し出すというのは、あるいはかれらの徒党のなかに小五郎もまじるということだろうか。しかし、かれらのように門閥の子弟でもなく、また年端もいかない小五郎を、仲間にひきいれたいと思うのだろうか。
つかみかからんばかりに激昂している大崎のようすに、口をさしはさむこともままならず、小五郎はひとりで怪訝の思いをめぐらせていた。
と、
「なるほどな」
今まで大崎にむきあっていた男が、くるりとふりかえって小五郎を見下ろした。そのまま傍らにしゃがみこみ、眼のはしで大崎を睨みすえて、
「貴様のような金仏はこれだから怖い。白粉の匂いを仇かなんぞのようにけがらわしがって、その挙句がこんな子供をたぶらかそうなんざ」 
なあ、お前、と、そこで彼は小五郎の顎を手でもちあげた。ぞくりと背中にいやな感じが走る。
「お前、大崎が好きか」
小五郎は目を見ひらき、一瞬大崎のほうを見たが、すぐにまた男にむきなおって、上目遣いにじっと睨んだ。何と答えれば、この場合、いちばんいいのだろう。下手な返答をすれば、かれらは大崎を殴るかもしれない。大崎の蒼白い頬が腫れ上がるさまを思いうかべて、小五郎はそれだけはさせまいと、下手な返事のかわりにむっつりと黙りこくっていた。
「そんな顔をするなよ」
男はわざとらしく、困ったふうの表情をうかべて笑った。
「あのな、大崎は、お前に懸想しているぞ」
(え……?)
ふっと、一瞬、小五郎の全身のこわばりがとけた。
(懸想……)
その頃の小五郎は、まだ悪所を知らなかった。女といえば、母や姉妹たちとしか親しくことばを交わしたことがなかった。だから男女のことにかけても、まだごく淡い知識しかもちあわせていなかった。
懸想というのは、と小五郎は思った。
懸想とは、いつか父母にもきょうだいにも隠れてこっそりと土蔵の中で読んだ、人情本のなかのあの世界のことだろうか。女が男の袖をとらえてさめざめと泣き、男がその髪をかきなでる、そうしてなにか秘めやかなことがおこなわれる――その湿った息遣いの濃密さがすこしこわいくらいであったあの物語は、「武士の子の読むものではない」といわれたから覗いてみたくはなったものの、結局ただ悪い行いという感じがするばかりで、小五郎にはよくわからなかった。大崎が懸想しているというならば、彼はあの物語を読み解く秘鑰をにぎっているのだろうか。
しかし、自分に――――?
いわれたことの意味を充分に理解するには、小五郎はまだ稚なかった。ただ、懸想というからには大崎は自分を好きなのだろうと思い、大崎に好かれているということが、こんな場違いの仕儀に陥っている今でさえ、ひどくうれしかった。
が、当然、大崎のほうはそれではすまなかったのだろう。
「よせ、馬鹿なことをいうな」
首筋に血の色をのぼらせて激しく首を振る彼を、男たちはさも馬鹿にしたように、そうしてなにか腹を立てているように、小鼻に皺をよせて笑った。
「なあ、あのとおりだ」
と、小五郎の前にしゃがみこんだ男は、親指を立てて大崎を指した。
「だから俺たちが辞を低ぅくしてお前をくれろと頼み込んでも、いっかな聞いてくれなんだのよ。――でもな」
男の笑いが黒い影になって、小五郎の面上を覆う。肉が裂けたような男の歯茎の赤い色を、小五郎はおそらく生涯忘れないだろうと、あとになって思った。
「俺たちは、大崎が嫌いだからなあ」
「よせ、」
叫んで身をおどらせようとした大崎に、たちまち男の仲間が二人、飛びかかっていって組み伏せる。
「貴様の思いどおりになんぞさせるか。そこで見ていろ」
小五郎に話しかけるときの、気味のわるい猫撫で声とはちがう酷薄な声音が、ぴしりと大崎へむけて投げつけられた。
「やめろ、よせ、」
狂ったように叫びつづける大崎の口を、骨ばった手が覆った。くぐもった叫びが、かなしい悲鳴のように聞こえた。
「やめてください」
と小五郎もふるえる声をあげた。
「大崎さんは自訴すると言っています。乱暴はしないでください」
「ぶはっ」
男の口から奇怪な音が洩れ、細かなつばきが小五郎の顔にかかった。笑ったらしい。
「心配するな」
今度はつくり笑いではなく心底おかしかったらしく、男は目尻を指で拭っている。
「言っただろう、あいつは見ているだけだ。おとなしくしていれば何もしないよ」
「でも……」
そのあいだも、潰されようとする鶏のような大崎の悲鳴がつづいている。
「おい、うるさいな。裸に剥いて縛り上げておけ」
男が仲間をふりむいて顎でしゃくる。仲間たちが、いわれたとおりに大崎の衣服をひきむしりはじめた。小五郎は男の手をとらんばかりにして哀願した。
「本当に、本当に乱暴は……」
「しないさ。暴れるから縛っておくだけのことだ。それから――」
お前には、いいことを教えてやる。
にっと笑った男の歯茎は、やっぱり裂けて爛れた肉の色であった。

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【2013/02/19 17:47 】 | よみもの
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