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【2026/04/05 02:23 】 |
大久保×木戸
昨日の『八/重/の/桜』が尚之助×覚馬フラグびんびんでみなぎりました。
これからさらにけしからん展開になってゆくことを心から期待します。

最近、うすいごほんとのご縁に恵まれておりまして、
先日たいへん素敵なものを手に入れたうえ、
さらにまた近頃明治夫婦のうすいごほんをお迎えする予定になっておりましたため
「ふうふふうふふうふふうふふうふふうふf」と四六時中鼻息荒くしておりましたら
その息が凍ってこんなものができました。
大坂会議のあと、という設定にしてみましたが、
なんだかあの人たちは結局同じことの繰り返しよね、という結論に至りました。
世間の夫婦は長く連れ添ううちにだんだんと清い関係になるものだと
仄聞しますが、この2人はずっと爛れていればいいとおもいます。

それでうすいごほんはですね……もうね……しあわせです……
この萌えで雪も氷も楽々融解できますね。
ちょっと冬山行ってくる。


以下、よみものでございます。


『悪盟』
 表を流す物売りの声で目覚めた。
 のんびりとした節回しにもどことなく華やかさがあるのは、やはり上方の風だと思う。
近づき、また遠のいてゆく声の澄んだ感じは、今朝の冷え込みのせいでもあろう。あるいは雪でも舞っているのかもしれないが、わざわざそれをたしかめる気にはならなかった。
大久保は寝巻の襟を直すと、布団をかぶったまま、枕元の煙草盆を引きよせた。常の彼ならばしないことだが、しどけなく衣裳の散ったこの部屋で、濃い靄のように肌をつつむ懶惰の雰囲気に、大久保もまたなじんでいた。
埋み火をどうにか使い物になるくらいにおこして、きつく詰めた葉で二、三服つづけざまに吸うと、大久保は煙とともに天井を見上げた。その板に印された染みに、うっすらと見覚えがある。旧藩の蔵屋敷からもほど近い、旗亭の二階である。窓を開ければ土佐堀川の流れが見えるこの部屋を、たぶん、以前にも使ったことがある。
(あるいは、あちらも――)
と、さっきまでひとつ床の中に寝ていた男のことを思った。長州藩の蔵屋敷もここから近かった。彼はゆうべはなにもいわなかったが、ここらでいちばん大きく、筋目のとおったこの店に、おそらく過去に上がったことがあるだろう。
(さて)
寝起きのとりとめもない物思いは、彼のことへ落ちていく。
(厠ではなさそうだ)
彼は――木戸はいつからいなかったのか、大久保が起きたとき、彼の寝ていたはずの場所はすでに冷えていた。帰ったかとも思ったが、袴と札入れ、それに何やらこまごました荷物を置いていったきりである。それに帰るならば、余のときはともかく、今日ばかりは何がしかの挨拶をして出て行くであろう。
 
近頃、昼間頻繁に木戸と会っている。そうしてそれは、実に半年ぶりの再会であった。
大久保の佐賀出張の間、離れてはいたが、木戸との連携はむしろ密であった。ところが妙なもので、大久保が帰京するとその関係はまた難しくもつれだし、征台の一件でとうとう木戸は全身の毛を逆立てるようにして席を蹴り、挂冠して国へ帰ってしまった。
『なんやもう、放っておいたらええのんとちがうか』
岩倉などは露骨に面倒くさげにそう言ったが、かといってそれがまったくの本心というのでもない。それが証拠に三日も経つと、
『なあ、木戸は、あれは、どうにもならんのかいな』
やきもきしたようすで大久保に詰め寄った。
『どうにもなりませんな』
と、そのとき大久保は無表情に答えたものである。
『今さらちょっとおだてたぐらいで帰ってくるような小才子でしたら、それこそ呼び返すには及びますまい』
大久保は木戸の手強さをよく知っている。ただのつむじ曲がりや気まぐれではない。彼はあれほど人の輪の中にいることが好きでありながら、最後の最後、ここが切所というときには孤独を恐れぬのだ。凄まじく冷えてひび割れそうな孤独の芯に、常に揺るぎない彼の志操がある。しかもそれは常に、一定の精度をたもった正論――たとえ書生論であるにしても――である。
だから、木戸は怖い。
岩倉にも、おそらくそれはわかっているだろう。
『そんななぞなぞみたいなこと言いないな』
下駄の裏のような顔をしかめてそっぽを向いた。
『わては、あれは好かんえ』
好かんけど、つまみ出してすむいう話でもないやろ。実に悔しそうに、岩倉はそう言った。
(そうとも――)
今彼をうしなえば、政府の命脈は遠からず尽きる。それを木戸自身は、単に看板の美々しさというふうに――つまり自分がいることで在野のある層に対して目くらましをしているのだと解釈しているらしいが、そうではない。彼の名は無論美だが、大久保がおそれ、かつ欲しているのはそんなことではない。彼には、政府の枝がしなるほどのたわわな実(じつ)がある。彼の能力は、今の政府に必要である。
それも、喉から手が出るほどに。
もっとも、危険ではある。良薬がときに劇薬となりうるように、木戸を復帰させれば、せずもがなの心労をする羽目になる。彼のえがく新国家像は大久保とかさなりながら、しかし決してまじりあわない。悍馬の哮るあとを追うようにして、大久保は木戸に振り回されねばならない。
――それでも。
それでも、木戸は必要だった。
だから、ほとんど無理やりに官を振りすてるようにして下野した木戸を、大久保はどうにかして追いたがった。
しかし。
『さあ、それはどうですか』
と肩をすくめてみせた伊藤の、あの小面憎さ。
三条の召しに応じず、言葉をつくした大久保の手紙にも不機嫌そうな返翰をよこすばかりの木戸を、説き伏せられるとすればもはや伊藤しかいないだろう。君、どうです、と言ったら、彼はいかにも閉口したといったふうの苦笑をうかべて、
『私の手には、どうも』
思案するようすもみせずに断った。はじめ、大久保はそれを、出世相応に膨らんだ伊藤の気位のせいなのかと思った。大久保の依頼は虫が好いといえばたしかにそうで、後来中興のためというのを理由に、伊藤を茶坊主につかっているのとまあ変わらない。それで、今度は丁寧に条理を説き、辞を低くして頼んでみた。すると伊藤は憫笑にちかい表情で、溜息まじりに首を振ったのである。
『私がいやというのではないのです』
おっしゃることはよくわかるつもりです。ぜひともそれは、今は木戸を呼び戻さずばなりますまい。しかし――
『なまなかなことで翻意する人ではありませんよ』
甘くみないほうがよろしい、という意味を、伊藤の口吻はにおわせていた。まるで、伊藤自身が野から強引に引きさらわれようとしているかのように。
『承知しております』
と、大久保はひくく頷いた。
どだい無理を言っているのだ。木戸の辞表を、大久保は私かに謄(うつ)して持っている。
辞意の宣言にしてはいささか長すぎるその表章は、しかしまことに堂々たる名文であった。あの明晰すぎるほどの道理をうちやぶる弁は、木戸に糾弾された政府の誰ひとりとしてもちあわせてはいない。である以上、結局は説破するのではなく、なだめすかして復官させるほかない。そうして木戸は誰よりも、そういう茶番めいた取引をきらう男であった。
(そんなことは知っている)
歯噛みするような思いで、大久保は木戸と仕事をしてきたこの何年かの記憶を、飛びとびに手繰りよせた。
木戸の美質も手強さも、彼の同役であり仇敵でもある、自分がいちばんよくわかっている。だから、
『あなたも手負いになるお覚悟をしていただきます』
伊藤にさかしらにもそういわれたとき、思わずきろりと目のはしで睨んで、
『当然のことです』
と答えた。伊藤はべつに悪びれもせず、といって大久保の決意に感歎したふうでもなく、ただすこし億劫そうに、
『そういうことでしたらやってみましょう』
と、細い目を冷たい床に落として言った。
 
そのあとのことは、さすがに伊藤の才幹と、何より木戸との交誼のふるさがものをいった。猜疑する木戸の心へ無理にすり寄るでもなく、彼の欲するところを機敏に察して手を打った。結果、「これこれの条件なら」ということで、木戸はとうとう、復帰を承諾したのである。
大方の話し合いは、すでに片付いた。いよいよ木戸の帰京の日どりも決まった頃、大久保の旅寓に彼の手紙が届けられたのである。
予感はあった。
かつて彼が政治上のことで屈したくもない(であろう)膝を大久保の前に屈する決意をするとき、また取りたくもない手をとろうとするとき、彼はきまってふらりと大久保を閨に誘った。気まぐれをよそおって、ただ快楽に溺れるふりをしながら。
彼の意図は、大久保にはよくわからない。ただ、大久保に抱かれることが、彼なりのなにかの代償であり、重要な儀式らしいと観察していた。おそらく大久保に体を投げ出さなければ、そうして自分をいったん抛ってしまわなければ、木戸は大久保のそばで仕事ができないのだろう。
(それなら、それでいい)
大久保はまんまと誘惑されるふりをして、いつでも木戸の手をとった。ただそれだけのことで、木戸が官に処(お)るというのなら、たやすいことだと思った。そしてそれ以上に、大久保が知った木戸の体の味は、ひどく甘美であった。
 
「顫えておられます」
ゆうべ、この部屋に呼び出された大久保は、木戸の肩に手をかけながら、そうささやいた。
事実、木戸はふるえていた。
男に狃れた体をしているくせに、何がいまさらこわいのかなどとは、大久保はいわない。木戸の恐怖は抱かれることではないだろう。あるいはその、大久保に見せている恐怖の表情すら、つくりものであるかもしれない。
――恐怖でなければならぬのだろう。
大久保に――薩摩に躙(ふ)みしだかれる自分。
そういう幻画を、木戸はおそらくこの閨のうちに描きだそうとしている。
もとより木戸は、志操のうえからいえば、今は絶対に復官したくはない。しかし一方で、大義のためにあるいはそれを枉げねばならぬ場合のあることを――そしてそれが今であろうということを、彼はよくわかっている。その折合をつけるのは、実に苦しいであろう。否、苦しくなければならないのである。
乞われてやすやすと復帰したのでは、木戸の一分が立たない。といってあくまではねつけては、国家のことが立ちゆかぬ。畢竟彼は、力ずくで、無理に拉し去られてゆくのでなければならなかった。
無論、木戸にそこまで強いることのできる者などいない。
だから彼は最終的には自分の意志で戻るのだが、それをせめて今この場所では、無理強いされる自分をつくりあげ、われとわが目で眺めておきたいのであろう。
(悪趣味な)
と、大久保はそうみている。何もみずからすすんで血を流して、それを眺めることなどなかろう。しかもその血を木戸は、大久保にまでなすりつけようとしている。
木戸のそういう面倒な心の機微は、大久保にはわからない。わかってほしいとも、彼は思っていないであろう。
(まあ、いい)
結局ゆうべも、大久保は木戸のその、奇妙にねじれた芝居につきあった。
 
(風呂だな)
灰吹きにとん、と煙管をあてながら、木戸の臥ていた白い隙間を見つめた。ゆうべ彼は、眠ったのだったか、気絶したのだったか――。拭いもせずに横たえた体を、起きてまず、清めに行ったのだろう。
(ひとりで風呂に行けるくらいなら、まあ大丈夫だろう)
手酷く彼を犯した、ゆうべの営みを思いやった。
ふるえている、とは言ったのだ。それで「平気か」と訊いたつもりだった。木戸は唇をかすかに笑ませたきり、なにもいわず、うつむいて自分の襟を寛ろげた。
(――ならば、いい)
大久保は木戸の体にのしかかり、引きむしるようにして衣服を剥いだ。痛い、と泣き叫ぶのを押さえつけて、奥の奥まで捻じ込んだ。
痛かったのは事実だろう。ろくに馴らしもしない木戸の中は狭かった。しかし、嫌だ、ひどいと肩をふるわせて泣いていた、あの涙の胡散臭さといったらどうだろう。たしかに彼はあらがったが、その腕の力は大久保を撥ねつけるほどではなく、閉じた膝も、押しやった大久保の手にたやすく割れた。本当に抵抗する気があるのなら、彼の膂力は、あんなものではあるまい。
(第一――)
と、大久保はそれを思い出して、皮肉げに頬をゆがめた。
痛い、苦しいと泣きながら、木戸はかつてのいつよりも早く昇りつめ、あっさりと弾けたのだ。ひとり勝手に達してびくびくと痙攣する体を、無論大久保はそのままゆるしはしなかった。
「ひ……っ! あ、まだ……、」
哀願してみせる、その目すら。
ああ、茶番だと大久保は思った。腰を抱えなおし、両脚をめいっぱいに開かせて、乱暴に奥を穿つ。べつに腹を立てているのではない。木戸が嘘をついていたところで、大久保が困ることなどなにもない。彼の真実になど興味はない。ただ、
(――面倒な)
彼を再び政府に迎えた先のことが、つくづくと気ぶっせいだったのである。互いにこれほど厄介な思いをしながら、それでもともに務めあげねばならないのか。
(神武創業ノ昔ニ原キ、か……)
あるいは今後の仕事次第では、それは僭称になってしまうかもしれない。
(途方もないことだ)
と思った。ときに文字通り骨まで砕けて死ぬ覚悟をし、ときにこれほどくだらぬ気苦労に身をやつさねばならない。大久保には、木戸のようにそれを感傷してみせる趣味はないが、しかし、おもえば渺々と、虚しさの吹きわたるような気がすることがある。
(いかんな)
結局それは、わが身かわいさということであろう。そういう女のようなふすぼれた物思いを、大久保は恥じた。だからそれを振りはらうように、ことさら手荒く、木戸の体を抱いた。
「や、あ、あぁ……!」
何度達してもゆるさず、意識を喪ってだらりと伸びた体を、なおも一方的に責めたてた。
 
(あれでよく起きあがれたものだ)
ふうっと長く煙を吐きながら、泥のように疲れきって昏睡していた木戸の寝顔を思い出す。大久保もまた、疲れていた。焼けあとのようにもおもえる褥の上に、二月の朝のあえかな陽が、障子を洩れてひらひらと細く注いでいた。
舌を焦がす煙が、しだいに苦くなる。
(葉を――)
詰めかえようか、と、吸口を離して火皿をのぞきこんだとき、すらりと障子が開いた。
「――ああ、」
振り向いた大久保に、木戸は微笑で報いた。正院の廊下でのすれ違いざまに見せるような、淡くおだやかな、しかし何の意味もない笑みである。
起きておいででしたか、という彼は、果たして風呂あがりらしく、上気した首筋に手拭いを掛けている。
「朝湯がありましたか」
煙管を盆の上へ戻し、盆ごと向こうへ押しやる。ええ、と答えながら、木戸は布団の脇に腰を下ろした。
「入りたいと言ったら沸かしてくれました。なんだか怪訝な顔をしていましたがね」
「ゆうべもお入りになったせいでしょう」
「でも、仕方がないじゃありませんか」
襟足の濡れたのを拭いながら、眼のはしでふっくりと笑う。湯あがりのせいでもあろうか、朝だというのに長い睫毛の先からこぼれる艶が凄いほどで、大久保はいささかうんざりするような思いで目をそらした。
木戸は湯あがりの――そしてゆうべさんざんに苛まれた体が重いのか、だらしなく膝をくずしたまま、腕だけをのばして、床に放ってあった袴を拾った。そうしてそれを着けようとするでもなく、ただのったりと指先で紐をもてあそんでいる。その唇が、相変わらず微笑んでいる。
(満足したということか)
抱きあう前、伊藤や井上などとともに会談の席に姿をあらわしたときの木戸は、大久保とひとつ部屋にいることさえ我慢ならないといったふうで、つつけば飛びあがりそうにびりびりしたものを漂わせていた。が、今はそれも凪いで、髪の先から落ちた雫が膝の上に染みをつくるのを、ぼんやりと気怠げに眺めている。
昨日一晩で彼の得た安寧は、大久保に心をゆるしたというわけではないであろう。それは今までの媾合でよくわかっている。彼はただ、自分の儀式を了えたにすぎない。次にまたそれを必要とする日がくるまで、とりあえず落ち着いているだけのことである。
(ずいぶん勝手なことだ)
と思った。たとえば血の気の多い乱暴者が、勘気をしずめるために悪所へ行く。大久保は、その場合の女郎の役にされたのとかわりがないではないか。そのくせ木戸はどこまでも、蹂躙されているのは自分だという顔をしている。
(そういうつもりなら――)
一体、それは不意の衝動というものだったのかどうか。大久保は彼らしくもなく、いがいがとしたものが胸を転がってゆく気がして、その心持のわるさに、ぐいと木戸の腕を引いた。
まるで予測しなかったであろう力を加えられて、木戸の体が布団に倒れこむ。が、彼の愕きの表情は、一瞬ののちには、皮一枚のつくりものに変わっていた。
 
木戸の帯を解き、両手首を括る。
「大久保さん……」
不安げに呼ぶ声に、こたえてはやらない。どれほど乱暴に扱おうと、房事に対する彼の不安などは、どうせまやかしにすぎない。
(そこまでつきあう義理はなかろう)
と、大久保は思っている。ゆうべ一晩で、求められたことは果たしたのだ。だから今朝は、大久保のしたいように木戸で遊ぶ。意趣返しといってしまえば女々しいようだが、それくらいのことはしてもゆるされるだろう。
『あなたも手負いになる覚悟をしていただきます』
伊藤はそう言ったのだ。そしてそのことばどおり、ふたたび木戸と手を結ぶことには、大久保にも苦痛があり、相応の鬱懐がある。何を木戸ひとりばかり、堪えているといった顔をされねばならないのか。
(当然の損料というものだろう)
ことさら傲岸ぶって胸のうちにつぶやいてみながら、大久保は木戸の裾を捲りあげた。
下帯を引き抜き、脚をひらかせる。
すぐに貫かれると思ったのだろう、木戸は目を閉じ、ゆるゆると息を吐きながら、両腿の力を抜いた。
無論、大久保もすぐに繋がるほうがいい。が、木戸がそれを待つようすを目にしたとたん、その期待を手ひどく裏切ってやりたい気になった。
両掌の下、手首に近いあたりをぐいと押しあてて、木戸のそこの肉をさらにひろげる。
「大久保さん……?」
怪訝に思ったらしい彼が、手首を縛られたま腰をよじって身を起こそうとしたのと、大久保の舌がそこにふれたのとでは、どちらが先だったろう。
「ひぅ……っ!」
木戸の喉が愕きに鳴る。腰が撥ねあがろうとするのをゆるさず、両腕を脚にからめて縛めるようにして、大久保は今度ははっきりと、舌先を密着させた。
ゆうべ、夜どおし大久保が慰んだ場所。熟れた襞が、あまり激しくしたせいで傷ついたのか、いつもよりも赤く腫れている。それでも再び交わることを望んでひくひくと物欲しそうにふるえているのを、ねっとりと舌で嬲ってやった。
「や、めてくださ……、」
木戸の体がこわばる。
彼に――彼だけでなく、人間のこんな場所へ舌を這わせたことなどなかった。男の尻へ頭をつっこんでいる様など、戯画にも何もなったものではないが、不思議といやな感じはしなかった。もがこうとする脚を、さらに強い力で押さえつける。
「嫌です、大久保さん、ぁ、や……!」
木戸は混乱したのかはげしく頭を振り、はっはっと短く荒い呼吸を繰り返した。離してほしい、と懇願する声は涙まじりで、
(まんざら嘘でもなさそうな……)
しかしそれもまた、わかったものではないが。
「大久保さん……」
そこに顔をうずめている大久保には、木戸の顔は見えない。しかし、だいたいこんなときの彼の表情というものは想像がついた。髪をふり乱し、汗ばんだ額に幾筋もそれを貼りつかせて、ぼろぼろと涙をこぼす。上気した顔を、滴るような淫らな艶に潤ませて。泣きながら、歎きながら、木戸は高まってゆく。目の前に晒された陰茎が、硬く勃ちあがりつつあるのが見えた。しかし大久保は、彼のそれには触れてやらない。
指で襞を押しひろげ、熱い粘膜の中へ舌を潜らせる。
「ひ……っ、あぁ、」
ひときわ高く悲鳴があがる。
「嫌だ……、」
「ご冗談を」
息を吹きかけながら囁いてやる。腕が自由にならないせいで、快感の逃しどころがないのだろう、それだけで木戸はびくびくと体をふるわせて、
「汚い……」
消え入りそうな声で言った。
「汚いことはありませんよ。洗っていらしたのでしょう」
「で、も」
「楽にしておいでなさい」
言うなり、唇を強くあてて吸いついた。
「ああぁ、」
木戸の背がしなる。きゅっとそこが閉じてしまう前にふたたび舌を捻じこみ、中を擦った。熱い粘膜が締まってはほころび、嫌だ、よしてくれとすすり泣く声とは裏腹に、嬉しげに大久保の舌に絡みつく。舌先を尖らせ、できるかぎり固くしてぐるりと中を舐めまわすと、
「や……! あ、ああ……っ!」
背を、脚を、そして濡れた肉を撥ねるようにひきつらせて、木戸は精を散らした。
「あ……ぁ……」
弾けたあとの小さな波を何度かやりすごし、目をうつろに開けたまま、彼はぐったりと布団に沈んだ。大久保は目をほそめて、彼の髪をかき撫でた。
「ご満足のようですね」
「……ひ、どい……」
「そうでしょうか」
湯上がりの温みのせいもあっただろうか。木戸は布団を濡らすほどに汗を滴らせて、肩で息をしている。白い敷布の上でぬらぬらと湿ったかがやきを放つ薄紅の肌が、ひどく淫らであった。
激しかった呼吸が、だんだんと深く、落ちついてくる。
(このまま恢復させてなるか)
ふと、わけもなくそんな思いに襲われて、大久保はもう一度木戸の膝を抱えた。
「大、久保さ、」
何をされるか気がついた木戸が見上げてくる目の、咎めるような、縋るような色。それを大久保はあえて突きはなさず、ただ形だけ微笑んでみせた。木戸がわずかに眉をひそめたような気がする。それすら微笑で受けて、大久保はゆっくりと、彼の中へ侵入した。
「ふ……っ、ぅあ……」
まだ遂情の余韻から醒めていなかった木戸は、結合の快楽のなかを、ふるえながら苦しげにたゆたう。その甘い歎きを追いやらないほどのはやさで、大久保はゆったりと木戸をゆすりあげた。
「あぁ……ん……」
結わえたままの木戸の両腕は、顔を挟むようにして頭の上で括られている。その白い手首をなやましげによじりながら、二の腕に顔をすりつけるようにして、木戸は身悶えた。
大久保が動くたびに、奥のやわらかな肉がひき絞るように誘いこみ、絡みつく。休みなくあたえられる快楽にもう木戸はほとんど脱力して、その意識も弛緩しきっているというのに、貪婪な彼の肉は、ひとりさらなる法悦をもとめて蠢いている。男と交わるよろこびを、体はどうしても忘れかねているのだろう。
「はぁ……あ、ぁん……」
彼の腰が大久保にあわせて揺らめく。
「そこ……」
かぼそくねだる声は、濡れた粘膜が大久保を頬張る音で、かき消されてしまいそうだった。だから、
「何でしょう」
と大久保は問い返してやる。すると木戸は眉根をみだりがわしげな憂いのかたちに寄せて、涙を湛えた眼で大久保を見た。
「そ……こに、もっと、欲し……」
「こう、ですか」
「ん……ぁ、もっと、」
木戸のいいたいことはわかっている。彼はもっと乱暴に犯されたいのだろう。ゆうべのように。が、大久保は空とぼけて、わざと神妙な顔をつくった。
「それではお体にさわりましょう。昨日はずいぶん無体な真似をしてしまいました」
ほんとうは、今日はもう、休ませてさしあげなければいけないところですが。情欲を抑えきれない好色漢になりきって、大久保はささやく。
「せめて、なるたけこまやかに抱いてさしあげます」
「や……大久保さん……!」
木戸の眼に一瞬瞋りに似た色が走ったが、大久保は涼しくそれを受け流して、やはり微笑でむくいた。その冷たい焔のような微笑に、木戸の顔が灼け爛れてゆがむ。そこにきざまれているのはかなしみのようでもあり、悔しさのようでもあり、しかし強いていうならば恐怖に庶(ちか)いかもしれなかった。
逸る体を楽にはしてやらず、時間をかけて苛み、達する手前で焦らした。やさしく、甘く、ゆるやかに高めてやると、その酷薄な蹂躙に、木戸はうらめしげにすすり泣いた。
「も……いきたい……」
「構いませんよ」
「かま……ない、って……」
あとすこしの刺戟がたりずに、木戸は切なげに身をよじる。
「お、くぼさ……」
紅い唇から、だらしなく唾液をこぼして。
「いかせて、くださ……」
後生ですから、と訴えた瞳は女郎のようで、しかしどこか子供のようにも見えた。そうして大久保は、
(――――ああ、)
木戸を手籠めにしているのだな、と今さらはたとそんなことを思って、その次の瞬間には、彼の体の奥へ、肉を捻じあげるようにして突き入れていた。
「ああぁ――――」
大久保の背にからめた脚をひきつらせて、木戸が果てる。断続的に痙攣する体を離さず、引き絞るように狭くなる内部で二度、三度と自身を擦り、大久保は、その悦楽のしるしを解き放った。何度も何度も犯したゆうべよりも、注いでやったという感じは濃く胸を盈たした。
 
「起きあがれますか」
と声をかけても、木戸は敷布によった皺の波を茫然と眺めたまま、わずかにまばたきをするばかりだった。
彼の顔は、まだ汗と涙に濡れている。
手酷く犯したゆうべよりも、今朝のほうがずっと倦怠の色が濃かった。それは、疲労の蓄積ということだけではないであろう。単なる情交後の虚脱ではない、渺々とした喪失感が木戸をつつんでいるはずで、大久保はそっとそれを観察して、ひそかに腹が癒えるというのか、なにか安堵をおぼえた。
木戸の体に布団をかけてやると、自分もおなじ床にくるまったまま、ふたたび煙草盆に手をのばした。どうも彼を抱いたあとは、無性に煙草がほしくなる。
ゆっくりと吸いつけて、口を小さくあけ、舌でぽう、と煙を追いやる。すると、白い煙の輪ができた。楽しくも何ともないが、若い頃に習いおぼえたくだらぬ手すさびである。
「……それ」
と、横でかすれた声がした。ふり返ると、木戸が長い睫毛の影にかすむ瞳を、消えていこうとする煙にむけていた。
「器用、ですね」
片頬を布団につけているせいで、彼の声はすこしくぐもって聞こえる。
「そうでもありません」
つまらぬものを見られた。べつに恥じなくてもいいのだが、なんとなくばつが悪くて、大久保はことさら無感動な声で言った。
「コツさえつかめば、誰でもできます」
――くだらぬコツですが。いいわけがましくつぶやいた。ふ、と木戸が笑う。
「あなたはほんとうに無駄なことがおきらいなんですね」
大久保はちょっと木戸の顔を見たが、何と答えたものかわからずに、そのまま目をそらした。と、木戸が床の上に腕を突っ張り、身を起こそうとする。さっと手を貸そうとするのを、目顔で拒まれた。
く、と息を洩らしながら、腰から上だけを起こした彼の背から、布団が滑りおちる。大久保の側に向けている胸には、ゆうべと、さっきの媾合の名残が、点々と紅く散っていた。そうして乱れて顔に落ちかかった髪の下から、彼は微笑んだ。その姿は凄艶であるはずなのに、大久保は、情欲とはちがう場所で、自分がぞくりと震わされるのを感じた。
「まあ、いいでしょう」
ほとんど精いっぱいの力で起きあがっているはずの木戸の、しかし、骨まで貫きとおすような瞳の力。それなのに唇は美しく笑っているのだ。大久保は、背筋を冷えたものが走るのを感じた。
あなたが、と微笑した木戸の唇からこぼれる声は、明るく澄んでいた。どうしてその声に、灼けた鉛を呑まされたような気分になるのか。
「あなたがそれほどお嫌いな無駄なことを――無為な時間を、こうして私のためにつくってくださる。それを恩義に感じないほど、私は厚顔ではありませんよ」
「木戸さん、」
問いかけるのを遮って、
「東京へ帰ったら、あなたの望まれるとおり、せいぜいお飾りになってさしあげましょう」
うわべばかり鍍金した張子の正成像にでもなって、正院の正門前に立っておりますよ。そのかわり――
「ただ立っているのは退屈ですからね。窓から洩れる議論を拝聴しております。飽きさせないお話をしてくださらなければ、さっさと家へ帰ってしまいますよ」
その、ぎらりと底光りのする、抜身のような目――。大久保は、ひととき翻弄してやったつもりでいた彼が、すこしもこたえていないのを知った。
(ああ、これが)
これが木戸だ。大久保はうんざりした。彼を思いどおりにできないことではなく、これほど放埒――だとつねに大久保は思うのだが――でありながら、どこまでも大久保に去勢されたつもりでいる彼の態度に。
「そんなところに立っていられては迷惑です」
煙草の苦さが、舌に痛いほどになっている。煙管の雁首を灰吹の角で叩きながら、溜息まじりに言った。
「妙な張りぼてのふりなどなさらずに、どうぞ中へお通りください。あなたの御高論を拝聴するのでなくて、どうして御帰京を願いましょう」
「あなたはいつもそんなことをおっしゃいますね」
「何度申し上げてもおわかりいただけないからです」
そして、何度抱いても変わらない。
つまらぬことをするものだ、と思った。自分も、木戸も。
「私はこれでも、あなたを信頼申し上げておりますよ」
わずかな沈黙のあとで、木戸がそう言った。からかわないでほしい、といった意味のことをいいかけた大久保は、うすくひらいた口をとじて、その言葉を呑みこんだ。
木戸の眼が、まっすぐにこちらを見ている。かつて大久保に対して信じている、と言うとき、それはなにかの韜晦でしかなかったはずの男だが。
「あなたは絶対に御一新を――大義を裏切らない」
大久保のつけた痣にまみれ、欲に濡れた体であるのに。木戸にはもはや情痴のかけらもなく、彼の目も声も肌の色も、おそろしいほどに澄んでいた。
「渾身、皇国のために生きてくださいますね」
私はどこへ行っても、あなたと袂を分かっても、いつもそればかりは信じておりますよ。
――――心から。
それは透きとおっているのに、ひどく肚にこたえる声だった。
(実に、途方もない)
彼を去勢しているのは自分ではない。ほんとうは、それは彼にもわかっているだろう。そうしてまた自分も彼にひとしく、その大いなるものに征服されているのだ。
それは、苦痛ではない。ただ、
(途方もない)
と大久保は思うのである。自ら択んだことではあるが、背負いきるにはあまりに重く、前途はあまりに遼遠である。あらゆるものを捧げきってなお及ばない。
つまらぬ芝居とわかっていて木戸と騙しあう、そんな馬鹿ばかしさを堪え、たがいに自らを貶めてさえ。
「ずいぶん、やっかいですな」
ひくく呻いた言葉に、
「ええ」
と木戸がうなずく。こころもちふせた睫毛の影が、頬に微妙な陰翳をあたえている。その影がまばたきにつれてわずかにそよぐのを眺めながら、大久保は、生あるかぎり、ということを思った。この先死ぬまでついてまわるであろうどうしようもない重苦しさと、人にはいえぬ虚しさ、おそろしさを思った。そうしてそれに共感できる相手はついにこの木戸しかいないであろうことに思いいたると、やりきれぬ深い溜息を、つめたい朝の空気のなかへ吐き出した。

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【2013/01/14 17:29 】 | よみもの
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