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【2026/04/05 02:37 】 |
広沢×木戸
広沢さんとスタートオブプリンセス(逐語訳)。

明治2年のお正月をイメージしてみました。
以前書いた広沢×木戸では、2人のお初は同年夏の設定になっていたんですが
当時も今もわたしはなんにもかんがえていないのでゆるしてください。

明治2年のお正月は、木戸さんにとって久々にほっとする、
楽しいお正月だったようです(なんか日記でそんなん言ってた)。
なのでがっつきすぎない、傷つけられない、アブノーマルにならないお相手を
選んでみました。
まったりいちゃこらしてればいいよ。

どうでもいいですがこれで読み物50本目です。
いつまで続くかわかりませんが、
今後とものんびりおつきあいいただけましたら幸いです。


以下、よみものでございます。


『初春の雪』
 玄関の引戸を開けると、白いものが舞っていた。おもわず見送りに出た妻を振りかえると、彼女も目をほそめてうなずいた。
 「傘をお出ししまひょ」
 といわれたが、
 「いや、いい。すぐそこだから」
 答えて、また空を見上げた。空気がかわいている。この雪ならば濡れないだろう。
 「隣にいるが、誰か訪ねてきてもいわなくていい。またぞろ大勢で押し掛けてこられても面倒だからな」
 「へえ」
 頃日の異常なほどの賑わいを知っている妻は、ちょっと口許を隠して笑った。元日以来、木戸の家は年始の挨拶に来る客でごったがえしていた。松子は前身が前身だけに、かれらをそつなくもてなしていたが、それでもずいぶんな騒ぎだと思ったのだろう。
 「明日は、早くに出かけてしまうかな」
 ゆうべ木戸がそう言うと、
 「逃げはるんどすか」
 そらさすがに降参どすやろなあ、と布団の襟に顔を埋めるようにして笑っていた。
 「……積もりますやろか」
 首を伸ばして、外をながめわたす。
 「さあなあ」
 木戸は襟巻を鼻先までひっぱりあげた。さすがに冷える朝である。
 「ほな、ごゆっくり」
 妻の声を背に、外へ出た。霜の張った地面に、手指の爪ほどもある白い雪片が、吸いこまれるようにして溶けてゆく。
 (つもるだろうか)
 と、もう一度そのことを考えた。自分が、あたたかな部屋のうちにいる間に。
 今日これから先のことを考えて、木戸はじわり、じわりと地面にほどけていく雪にも似た、淡い苦笑をうかべた。うしろめたいようでもあり、しかしなにか心地よいこそばゆさが、ぽうっと自分の胸に灯るのを感じていた。
 
 「隣」と木戸がいったのは、広沢の家のことである。今日訪ねるのはかねての約束であった。本当は昼すぎでいいと思っていたのだが、ぐずぐずしていてはまた客が来てしまうだろう。
 「なんだ、早いな」
 案内の下女のしらせで奥から出てきた広沢は、しかし上機嫌であった。あわててその後ろから走り出てきた彼の妻が、鄭重に辞儀をする。派手ではないが、新春らしく美しく装われたそのいでたちに、木戸はなるほど正月とはいいものだと思った。そうして、その正月の朝からこうして他家に闖入している自分を、きまりのわるいものに思った。
 「まあ、上がれ。部屋がまだ寒いが……」
 「いや、着込んでいるから」
 それではお燗をおつけいたしましょう、と奥へひっこもうとする彼の細君に、おかまいなく、となるたけ丁寧に言葉をかけた。それは、うしろめたさのあらわれだったかもしれない。
 
 「あとは適当にやるから。それと誰か来たら俺は留守だと言ってくれ」
 ――いちいち上げていたら面倒だからな。
 広沢は、さっき木戸が家で言ったのと同じことを、細君に言い聞かせた。細君はそれを承った旨を、美しい角度で辞儀をして示した。これが武家そだちの妻というものなのだろう。木戸は細君の髷の根もとあたりを、そぞろに感心しながら眺めていた。元結の白さが、彼女が下がったあとも妙に目に焼きついていた。
 「今日は、あちらの御方様はどうしたね」
 細君の足音が遠ざかったあとで、木戸は盃を口にふくみながら、小声で尋ねた。
 「うん?」
 広沢はちょっと首をかしげたが、すぐに
 「――ああ、」
 と笑って、
「正月だからな。里へ帰したさ」
あれが色々土産をもたせてやったから、喜んでいた。満足そうにそういうのを見て、なかなか豪傑だと思う。
広沢には愛妾がいる。それも、本宅に同居していた。とりたてていうほどめずらしいことではないが、彼女と彼女の実家へできるだけの世話をしてやっているらしい細君のけなげさと、それをいたわりつつも、細君がこれからも何の故障も申し立てないにちがいないと、あかるく信頼しているらしい広沢のからりとした肝のふとさに、皮肉ではなく木戸は感心するのである。
(まして、しおらしげな女ならまだしも)
広沢の愛妾は、ぎらりと照りかがやくように脂ののった、いかにも妖婦といった感じの女で、あまり品のいいほうではなかった。
「あれはよせよ」
そう言った仲間もあるが、広沢はからからと笑っているばかりでとりあわなかった。
もっとも、木戸自身は彼にそういう忠告をしたことはないし、やめさせようと思ったこともないのだが。
(ひとのことがいえた義理ではないからな)
それは広沢ではなく、女のほうの――――……
「まだ寒いのか」
木戸は左手で盃をもち、右手を火鉢にかざしていた。その手を、広沢にとらわれる。
「冷たいな」
「外は雪だからな」
「ああ。見るか?」
縁につづく障子を顎でさされたが、
「いいよ」
笑って首を振った。
それより――と彼の顔を見上げると、まだ朝だぞ、と盃を湿している唇の端で笑われた。その顔が、実にいい顔であった。
「新年おめでとう」
と、木戸は唐突に言った。
「なにを言っているんだおまえは」
広沢がちょっと片眉をはねあげるような表情をした。
「挨拶ならとうにしたじゃないか」
「何度したっていいだろう」
なんだかそんな気分なんだよ。木戸はつぶやいて、手の中の盃に目を落とした。濁った酒のうちに、外の雪が舞うのが見えるような気がした。こうして沈黙していると、自分のわずかな衣擦れの音と、火鉢の炭が小さくはぜる音のほかに、なんの物音もしない。あるいは炭の音だと思って聞いているのは、外の雪の音ではないかと、そんなありようもない空想まで、ふと浮かんだ。
「静かだな」
「正月だからな」
広沢の声が、酒に溶けてゆく。
「正月だっていうのにな」
「なにが」
「わかっているだろう」
と笑うと、広沢も目だけで微笑した。
「まあ、いいさ」
と、彼はひと息に盃をあおいだ。
「癸丑以来、ひさしぶりに正月を迎えた気がする」
「俺もそう思っていた」
木戸はうなずいた。そう、これほどおだやかな新年の朝は、何年ぶりのことだろうか。雪の白さが――それは閉めきった部屋の中からは見えないのに――目に痛いようだった。正月などなかった気がする数年、この数年のあいだに斃れた人びとの名を、木戸は胸のうちでそっとかぞえあげてみる。地下に眠るかれらの上にも、雪は降りつもるだろうか。
白く。優しく。
「正月だからなあ」
と、広沢がそこでもう一度言った。
「それ相応にもてなしてやろうと思ってな」
大きな腰をのっしりと上げた。木戸は盃を置き、彼の立っていったほうへ首をのばした。広沢は部屋の端まで行き、続きの間の襖を開けた。
布団が敷かれている。あざやかな色合いに、木戸がおもわず広沢のうしろに立ってのぞきこむと、どうやら地は綸子の羽布団らしかった。
「贅沢をしているなあ」
「お前用だ」
悪びれもせずにいう。
「まさか奥方に敷かせたんじゃないだろうな」
「馬鹿をいえ。俺がこっそりと敷いてやったんだ。手ずからな」
「しかしずいぶん早いじゃないか」
「お前だって早くに来たじゃないか」
「まあな」
それもそうだ、と笑った。まるで色っぽくはないその会話に、しかしどちらからともなく肩をよせ、唇をかさねた。
 
馬鹿げているといえば、これほど馬鹿げたこともない。
正月早々、挨拶に来るであろう客を欺いてまで、男の家で隠れて抱かれる。家には彼の妻がいるし、隣の家には自分の妻がいる。彼女等は、妾や商売女のことなら目をつぶるだろうし、現に日頃つぶっているが、相手が男――それもともにお上に奉職する朋輩と知れば、どう思うだろう。
(出て行くかもしれないな)
自分の妻も、広沢の妻も。広い家にぽつんと残される自分たちを想像して、その滑稽さに木戸はふくふくと笑う。
「どうした」
その唇を、広沢の指がなぞる。答えずにいると、なんだ、ともう一度言いながら広沢も笑い、彼の唇が下りてくる。
あたたかかった。
これほど馬鹿げているのに、正月の朝から男どうし、それも若くもない自分たちが抱き合っている図など戯画にも何にもなりはしないのに、木戸の気持は決してふざけてはいなかった。かといって真面目というのでもなく、ただやすらかで、落ち着いていた。
ずいぶんとひさしぶりで迎えたおだやかな正月に、この男はどうしてこうも似合いなのだろう。
大きな手も、ゆっくりと熱を高めるような愛撫も。
木戸は目を閉じ、淡く息をついた。
広沢の手が、肩を抱き、背を撫でている。それだけのことなのに、衣擦れの音までが嬉しい。
「兵助、」
名を呼ぶと、彼の両眼が微笑んだ。襦袢の襟に手がかけられ、肩が露わになる。布団を掛けてはいたが、二人分の嵩のせいで大きくできた隙間から、まだ完全には温もらない部屋の空気が入り込む。ぶるりと肩をふるわせると、
「寒いか?」
体温をたしかめるように、そっと素肌を撫でられた。
「少しな」
答えると、広沢が襟を元に戻そうとする。その手を押さえて、かわりに彼の襟に手をかけた。
素肌を寄せあえば、きっとあたたかい。
その意味は広沢にも通じたのか、ふたたび木戸の襦袢を剥きにかかった。脱がせやすいように身をよじりながら、互いに袖を抜きさり、腰紐を解いた。
 
何度か腕を入れ替え、背をさすり合うようにして互いの体を抱いた。広沢の厚い胸から彼の鼓動が伝わり、吐息が首筋をくすぐる。絡めあった脚が、より深く温もりを探るように、押し返し、組みかえられては、かわるがわる膝を滑らせる。
彼の体の重みが、心地よかった。抱きしめられ、撫でられるたびに、彼の胸板に、自分の敏感な部分がこすれる。それは彼にもあるはずのものなのに、自分だけがぷっくりとそこを腫らして、さらなる刺激を欲しがっている。
が、木戸はそれを広沢に訴えることはしなかった。もどかしくはあったが、彼のしたいようにして抱かれたかった。それに、自分の欲しがることなど、彼は知っているにちがいないとも思った。
しだいに、互いの肌がしっとりと湿ってくる。
だが、その汗よりも、浅くなる呼吸よりも、雄としての昂ぶりを直截につたえる場所。そこの変化のために、ぴったりと抱き合っていることがつらくなったらしい広沢が、みじかい吐息とともに腰を浮かす。と、熱が離れてゆくさびしさに、木戸は彼の二の腕のあたりを掻いた。
「兵助……」
つぶやきかけた唇を、その先をひきとるように、彼の唇が吸う。
「ん……、っん、」
髷がくずれるのもかまわず、彼の髪に手を差し入れた。
彼の口づけは、どうしてこうも巧みなのだろう。
決して激しく貪るわけでもなく、技巧を弄しているふうでもない。むしろゆっくりと単調ですらあるのに、触れられている粘膜はもちろん、皮膚のすみずみ、爪や毛の先まで、彼の舌の熱さ、唇のつよさを感じて痺れていく。木戸は応えることもままならず、ただやわらかな粘膜をあずけていた。
そろそろ呼吸が苦しくなろうかという頃、不意に広沢の唇が離れた。
うっすらと目を開けると、熱に潤んだ網膜に、ぼんやりと彼の像がむすばれる。たぶん、目が合っているのだろう。はっきりとは見えないまま微笑むと、もう一度、今度は啄むように唇を吸われた。
先程の余韻と、今の刺激とを交々体の中で反芻していると、広沢の分厚い手が太腿に触れた。何度か撫でられて、彼の掌のあたたかさに身じろぎする。無意識に立てて開いた脚の奥へ、やがて彼の指先がふれる。
「あ……」
閉じようとした膝を、もう一方の手でおさえられる。木戸の淫欲が蠢く場所の入口を、堅い指が撫でる。
「ふ……っ、ぅ、」
やさしい手つきに、緊張していた襞がほころんでゆく。広沢の指が曲げられ、その先がぬっと入りこんできた。
「は……っ」
見ひらいた目いっぱいに、広沢の顔が映る。彼の表情には、閨の中でだけ見せるある種の凶暴さが宿っているのだったが、そのくせ彼はその慾をいつでも彼の懐の深くで潤して溶かし、木戸に触れるしぐさは、つねにやさしかった。
指が、粘膜を割って奥へ進む。
慣れた感触であるのに、木戸は息をはずませて、広沢の首にしがみついた。そうして彼の顔を、自分の肩へ寄せる。
見つめられていることに、堪えられなかった。
広沢は最中にあまりものをいわないほうで、ただ自分のあたえる感覚が木戸に苦痛でないことをたしかめるために、終始木戸の顔を見つめていた。その目つきは決していやなものではなく、むしろ雨が地に沁むような慈しみに盈ちているのだが、からかいもせず、辱めもせず、ただ滔々としたあたたかさを湛えて見つめられるその時間が、木戸にはこそばゆさをこえてなんだか悲しく、いつも肩をふるわせて泣きだしていた。その顔をも、広沢は底深い色をした目で、穏やかに見つめている。
今日の木戸は泣いてはいなかったが、彼の指一本に淫らに熟れていく体を、せめて表情では晒したくなくて、自分の顔の真上にあった彼の顔を、ぐいと肩先へ引きつけた。ふ、と鎖骨のあたりに彼の息がかかる。笑ったようだった。
体の奥で、広沢の指が濡れた肉を苛む。いちばん好きな、しかしおそれていた場所をかすめられて、喉がひとりでに甘い呻きを洩らす。腕から力が抜け、それと同時に広沢が頭を動かした。
「はぁ……っ」
激しく喉を反らせる。首の後ろから、枕がずれて布団の脇へ逃げた。ひとりでにぴんと持ちあがった爪先が、広沢の背から布団を蹴落とした。
「ん、や、兵助……」
広沢の唇が、乳首をとらえている。ぬめった粘膜が強く根元を吸い上げ、引っ張っては舌先でころがす。同時に、もう一方ののこされたそれを、堅い指の腹が押しつぶした。
「ひ、あぁ、」
そうされるのが好きだと、木戸は一度も言ったことがないのに、隠しようもなく変化してしまう表情とからだの反応で、広沢は木戸の悦びを知りつくしているらしかった。げんに今日も、その欲深い肉の裂け目は、吸いつくように広沢の指に襞を絡めている。
「ぅん……、」
切なげに身をよじり、それはべつに逃れようとしたわけではないのだが、広沢の胸を押しつけられて、その重みにまた体の芯が痺れる。だらしなく膝頭が割れたところへ、さらに指が増やされた。両の乳首が交互に喰まれ、時折歯を立てられる。そうしているあいだも指先はほぐれた肉の奥の一点を突き、またさらに新しい指がもぐりこんでくる。
「もう、離……」
彼の髪に指をからめ、胸を貪っている頭を引き剥がす。
「……そうか?」
顔をあげてこちらを見つめる目から、あわてて視線をそらした。こんなときでも彼はおだやかでおおらかで、そうして優しい。
額ぎわにほつれて落ちかかった髪を、彼の指がかきわける。心地よさに目をとじると、瞼に口づけが降りてきた。そっと触れ、また離れてゆく温もり。その余韻にひたっていると、
「ひぁ……っ!」
陰茎の先をちろりと舐められた。
「嫌だ、兵助、」
おどろいて逃れようとするが、
「やぁ……っ」
ぬめった口内に迎えられて鈴口を舌で嬲られ、傘の下を唇でいましめられる。
「ふ、あぁ……」
奥に埋めたままの指が、ゆっくりと動き出す。口の動きにあわせて深く浅く淫肉をえぐられる感触に、木戸は体をひきつらせて啼いた。
「兵助、もう、離れろ……!」
が、広沢は容赦なく内と外を責めたてる。
「ひ、あ、あぁ……っ」
そのとき木戸は、目を開けていたのかどうか。
ただ視界が白く染まり、滾った血が弾けて、その勢いに一瞬体が浮かんだような気がした。
「あ……あ……」
何度か痙攣を繰り返している間も、吐き出しきれなかった快楽の残滓を、強く吸いたてられて彼の喉に渡した。
 
甘い温もりのなかを、力をうしなった体がたゆたっている。意識を濃く覆っていた靄の編み目ががしだいにほころび、うっすらと透きとおったその隙間から、木戸はゆるゆると目をあけた。
広沢の手が、頬に添えられる。
「平気か」
と訊かれて、黙って頬を擦りつけた。
「無理をさせたか」
彼の声が、耳に心地よい。
微笑んで首を横に振ると、そっと呼吸をたしかめるように、彼が唇をあわせてきた。
「眠るか?」
子供のように頭を撫でられる。もう一方の手は、肩に置かれていた。髪をくすぐる彼の手つき、その幸福感に、
(眠ってもいいな)
と思ったのだが。
「いや、」
と、肩をさする彼の手に、自分の手をかさねた。
「抱かないなら、帰るぞ」
「帰れるのか」
広沢が笑う。
「無理だろうな」
髷もくずれているし、体は汚れているし、何よりまだ、体の疼きがやまない。
「帰れないから、抱けよ」
「無茶苦茶をいうやつだな」
そう言いながら広沢は、木戸の膝にやさしく手をかけた。
 
熟れた肉が、広沢の雄芯に押しひろげられ、ゆっくりと奥まで貫かれる。圧迫感とともに、甘い痺れが血のなかを駆けめぐる。
広沢はすべておさめきると、木戸の膝とともに自分の上体を倒して、互いの胸をかさねた。中で広沢の角度が変わり、押しつけられる感じが増す。それはたしかに苦しいのだが、こうして隙間なく体を寄せあうのが、木戸は好きだった。
「準、」
閨でだけ、彼にだけ呼ばれるその名。
旧主に賜った名前だが、文書のうえ以外でつかうことは稀だった。広沢にしてもふだんはその名で呼ぶことはないのだが、ただ抱き合っているときだけ、それも互いの感覚が高まっていくときにだけ、そっと木戸の耳に唇をつけて呼ぶ。
「準」
とみじかく、溜息のように。
木戸は答えるように彼のひろい背に腕をまわし、顔をかたむけて彼の唇を吸った。そのまま自分から舌をからめて貪ると、体の奥に埋められた彼の男のしるしが、また少し、質量を増したようだった。
「兵助……」
彼のあたたかさが嬉しい。
繋がっているのに、どこかさびしい。
その感じは彼につたわらなくてもいいと思う。抱き合っている時間の幸福も、抱かれるたびに体が変わるような気がすることも、自分だけが知っていればいい。ただ、もっと強く繋がりたくて、木戸は広沢を締めつけた。
く、と彼の息が木戸の後れ毛をそよがせる。苦いような、しかし今にも蕩けそうなものをようやく奥歯で噛み殺した顔で広沢が笑い、結露した熱が滴るようなその表情に、木戸の体の奥がふるえた。
「兵助」
背を抱く指に力をこめると、今度は彼のほうから、口づけがあたえられた。
 
これまでもねだったことはないと思うのだが、木戸のちょうど欲しくなるころに、広沢は動きはじめる。「いいか」とか「どうしてほしい」とか、彼はまず言わない。ただ木戸の顔を見つめ、体をあじわって、いちばん感じるように抱いてくれる。木戸が我をうしなって乱れても、それを辱めるようなことはいわない。
(言ってくれてもいいんだけどな)
一度、事が済んでからそう言ってみたことがある。が、広沢はちょっと片眉をあげ、片頬で笑ったきりで、何もいわなかった。木戸はひどく恥ずかしいことを口にした気がして、それきりその話はやめてしまった。
多分、彼は知っているのだ。
沈黙のまま抱かれることを、木戸がきまり悪がる理由を。辱めてもいいと、わざわざ口に出して言う、その気持の裏にあるものを。
(慣れない――)
それが木戸が沈黙をおそれる理由だった。
はじめて広沢に抱かれたとき、木戸は無垢ではなかったし、今でも常に複数の情人がいる。その誰もを木戸はそれぞれ気に入っていたし、そのこと自体は広沢も知っているはずだった。
そうして、広沢以外の男はわりあいによく喋る。
木戸の体を抱きながら、その感想――多くは感歎なのだが――を口にする。それから、淫らだ、という。それがいやではなかったし、なかには、はじめは無口だったのを、何か言えと促してそういう情事にもちこんだ相手もいる。
そうでないと、落ち着かなかった。
男に狃れた体をしていることが。熟れた体を、ときになにかとひきかえに男にあたえ、ときにみずからの慰めのために男を欲し、そうしてようやく鎮めているなにごとかを、肉の内側に匿していることが。
抱かれている間、激しく嬲られていなければ、そうして淫靡さを弄んでいなければ、木戸はそれの置きどころがわからなかった。
ものもいわず、木戸の好きなように高められ、慈しまれて、広沢のそのやわらかな沈黙に、どうしていいかわからなかった。なにかつまらぬことを言ってしまいそうで、だから木戸はいつも最後には、唇を噛んで泣いた。
今日も彼は、微笑みながらゆったりと、木戸の体を揺すりあげた。
硬くえらを張ったような彼の先端が、木戸の好きな場所を擦り、押しあげる。弾けそうになるのを、角度を変え、動きをゆるめてかわされる。
「兵助……」
恨みがましく見上げると、目尻にこぼれた涙を吸われ、頭を撫でられた。彼の唇も掌もあたたかい。ふれられた部分の皮膚の下が、ちりちりと熱をもつようだった。
(もう、嫌だ……)
彼の温もりが嬉しい。そうして体は悦んでいるのに、突かれている粘膜のもっと奥の奥、誰も触れえないところが切なく疼いた。木戸は堪えきれず、広沢にしがみついてその痛みにすすり泣く。
と、
「準……」
広沢の唇が、耳朶を喰んだ。
びくりと首をすくませると、
「今年は」
と彼はひくい声でささやいた。
「今年は、俺がはじめてか」
(え……)
木戸は涙に濡れた目をぼんやりとひらき、首を傾けて、すぐ横にある彼の顔を見た。それがしかとは映らないうちに、
「なあ、」
繋がっている場所の弱い一点を剔られて、悲鳴をあげる。ふるえる体にさからって、
「兵助、」
彼の頬に触れようとしたが、その手は押しのけられ、かわりに彼の掌で目を塞がれた。もう一度呼びかけようとした唇を、深く貪られる。
(兵助……)
口づけにこたえながら、今度は胸のなかで彼の名を呼んだ。いつになく彼にそんなことを訊かれて、体の芯が甘く痺れた。広沢のためにほぐれた粘膜が、音をたてて彼に絡みつく。腰をよじり、脚を彼の体に擦りよせて、さらに深く誘った。
(早く、この口を、)
離してくれなくては、と思う。早く答えたいのに、木戸もまた、広沢の吐息ごと奪うように激しく舌をからめ、彼の唾液を吸った。
(お前を待っていた)
そう伝えたかった。
広沢が尋ねたとおり、今年は、男と肌をあわせるのは、彼がはじめてだった。
(お前がいいと思ったんだ)
自分の生まれたのがどうやら乱世らしいと知ったときから、艱難は覚悟していた。しかしそれでも、思った以上の波瀾に遭い、失ってはならない人を大勢亡くした。
(ずいぶんいろんなものを見た)
もうたくさんだと、疲れた心がいつも思っていた。だが見送った人々に、かれらの血と涙に責められて、すでに余生と思った日々を生きてきた。
その自分に――おなじものを見てきた自分たちにとって、今年はひさしぶりの心やすらかな正月だった。かぞえてみれば数年だが、もう何十年も経ったような気がしている。
惨憺たる思い出の、数々の場面の隅に、広沢はいつもいた。
彼は自重を言い訳に退嬰主義をとる俗論の徒ではなかったが、といって暴発をこのむ血気の輪にも加わらなかった。いかにも能吏型のやり手で、肚のわからぬ男だと陰口をきく者もあったが、木戸は広沢の沈着な、肝の練れたところが嫌いではなかった。
彼は結局は暴発の一派として括られて、投獄や潜伏と、その派の連中にひとしく辛酸を舐めたが、それについてべつに愚痴も苦情もいわなかった。いつでも、黙ってきびきびと自分の仕事をしていた。その語るところは明晰であり、情実では動かないが、道理のあるところに果断にことを運んできた。
そうして、いつでも風が吹きとおるようにひろやかで、泰然としていた。
その広沢とこそ、今年の春を迎えた懐(おも)いをわかちあえると思った。
木戸も幕府や国の俗論党からは無論のこと、一応は同志であるはずの連中からも、ずいぶん猜疑され、ときに憎まれてきた。「志に死なず、利に転ぶ」とさえ面罵されたことがある。あそこで怒りにまかせて屠腹することができていたら、いっそどんなに楽だったかと思う。
(あの時間を、こえてきた)
ときにひとにいえぬ手段もつかった。
そうして暗がりにじっとりと咲きこぼれ、熟れてきた体――――ゆるされるならばこの体を、今日ばかりは初春の寿ぎのなかへ連れだしてやりたい。
(だから――)
「お前に、会いたかったよ」
ようやく唇が離れたとき、まだ鼻先をふれあわせながら、息をはずませて木戸は言った。一瞬広沢の動きがとまり、きつく抱きしめられる。
「そうか」
首筋に口づけながら、彼がつぶやく。うん、と頷くと、腰骨が砕けそうなほど深く突き上げられ、木戸は背をしならせて啼いた。
 
「準、」
と呼びかける広沢の声がかすれている。
返事をしたいが、木戸はもう言葉をつむぐこともままならない。揺さぶられるまま、だらしなく声をあげていた。
広い座敷とはいえ、家人のことが気にかからないではない。けれども広沢はいつも声をおさえろとはいわない。大丈夫なのかと思うが、自分ではもうどうしようもない。
いい場所を擦りながら、時折、首筋を噛まれ、乳首を捻られる。痛くないように。木戸が快感だけを得られるように。その息苦しいほどの甘さに、木戸は身をよじり、広沢の背に爪をたてて泣いた。
これほどあたえられているのに、切ない。
長く生きすぎた体が。知りすぎた心が。
(兵助)
お前は、辛くはないのか。そう言えばこの男は、黙って笑うだけだろうが――。
(俺は、だめだな)
お前のようにはいかぬ。辛い。辛くて悲しくて、しかしこうして生きている。生きて、今朝の春をお前に抱かれていることが、こんなにも心地良い。
広沢の吐息が、肌を撫でてゆく。滴り落ちる彼の汗が、皮膚を沁みとおって自分の血にまじりあい、まじったところから彼の血になってゆく気がする。血はやがて肉に泥み、骨を浸し、自分か彼か、わからなくなる。それでも繋がったところは彼の熱さと大きさ、それに穿たれる衝撃をたしかに感じていて、ああ結局はひとつにはならないのだと、それは安堵なのか寂しさなのか、木戸の睫毛をあらたな涙に濡らす。
「準、」
広沢が苦しげに呻き、彼の動きが早まる。体がばらばらになりそうな感覚を、木戸は首を振ってやりすごそうとし、しかしそれもすぐに無為になって、あとは四肢をふるわせて快楽の淵に身を投げだした。瞼の裡に星がちかちかと明滅し、その光芒がやがて白く遠ざかってゆく。
「あ、あ、あ……」
最後の光芒がひときわ眩しく閃き、木戸は体を弓なりにして果てた。ひきつれるように収縮する肉の深い場所で広沢が吐精するのを感じながら、光の去ったあとの青いひろがりに、沈むように自分を瞑らせた。そこは静かだったが、決して暗闇ではなかった。
 
雨にうたれているのかと思った。
春の柳を濡らすやわらかな雨を木戸は思ったが、ゆるゆると醒めてくる頭で考えてみると今はまだ正月で、今朝の空は雪だった。
何気なく胸に手をやると、そこには太くあたたかい腕があって、そこではじめて木戸は、布団のなかで横向きになって、広沢に後ろから抱えられるようにして眠っていた自分に気がついた。
(ああ、これかな)
背中につたわる広沢の鼓動に、そっと微笑む。
ゆったりとひくく響くそれは、夢うつつに感じた雨だれの拍子によく似ていた。
うなじにあたる、彼の寝息がくすぐったい。
胸に置かれた彼の手を撫でていると、その呼吸の調子がかわり、やがてかすかに呻きながら身じろぎするのを感じた。
「……起きていたのか」
まだ眠そうな声で、彼が言う。
「つい今しがた、な」
彼の節くれだった指を弄びながら答える。
「まだ帰らないんだろう」
「帰らないさ」
まだ朝じゃないか、というと、それもそうだ、と彼が笑った。
「いつまでいる」
「お前が帰れというまでだな」
「困ったな。帰せないぞ」
「玄人女みたようなことをいうなよ」
じゃれあっていると、広沢がふいに、木戸を抱く腕に力をこめた。彼の顔が、肩口に埋められる。
「……どうした」
振りかえらないまま尋ねる。
「なあ、」
広沢の声が、肩胛骨のあたりでじわりと響く。
「うん?」
彼の手に指をからめた。それをさらに、きつく握られる。
「お前、来年も俺を選べよ」
来年の正月も。こうして。
木戸ははっと振り向こうとして、途中でやめた。頬に血がのぼり、じんと胸の苦しくなるものが体の奥から沸いて、皮膚の下をあたたかく濡らしていく。
「鬼が笑うよ」
かろうじてそう答えると、そうだな、と笑いをふくんだ声が肩をくすぐった。
(来年――か)
来年も、今年のような正月を迎えられるだろうか。今年のように、広沢が――彼のやすらぎが似合う正月を。
(そうなればいいがな)
不安でも皮肉でもなく、心底そう思って、肩に寄せられた彼の頭に頬をあてた。彼とふれあっている今このときだけ、新年の前途はやわらかな光につつまれて見えた。
「雪……」
おもわず、そうつぶやいていた。彼に寄り添ってながめわたす時間は、過去も今も、なにかあの初雪のかがやきに似ていた。
「雪?」
広沢が顔をあげる。
「いや、なに、」
木戸は障子のほうへ顔をむけた。
「雪はつもったかと思ってな」
「さあ、どうだろうな」
言いながら彼は起きあがり、脱ぎすててあった襦袢をひっかけて、縁に面した障子の前まで歩いて行った。そうしてすらりと障子を開けるのを、
「寒いよ」
木戸は横になったまま、笑いながら見つめていた。

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【2013/01/04 20:12 】 | よみもの
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