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【2026/04/05 10:03 】 |
高杉×桂
最近ひょっとすると幕末サーチエンジン様から飛んできてくださった
御新規様がいらっしゃるかも……と期待をしております。

初めてお越しくださった皆様、拙ブログはいかがわしいもの、
下品なものを好んで展示するたいへんよろしくないブログでございます。
しかも本来見る人を選ぶようなその手の展示品にも、
しばしば警告文をつけるのを忘れております。
ちなみによみものはほぼ全部閨房のソレコレを書いていると思ってくださって
間違いありません。
どうぞお含みおきのうえ御覧くだされば幸いです。

そういう次第で以下、ご多分に洩れない仕様のよみものでございます。


『暗濤の光』

 砲声も轟かず、弦歌も絶えた海峡の夜は、宿のすぐ下を洗うような波の音が、いやに澄んで聞こえた。
 (相変わらずだな)
 と、桂は苦笑を噛み殺しながら高杉を眺めた。およそ一年ぶりに会ったというのに、それも常の再会ではない、互いに辛くも拾った命を持ち寄って、こうして顔をつきあわせているというのに、高杉はしんねりと押し黙って、いかにも不景気そうに盃のふちを含んでいる。それが感情が昂ぶったときの彼の癖でもあった。
 やがて盃を干してしまったらしく、唇を離した。桂が銚子をとって注いでやろうとすると、ちょっと袖をあげるしぐさでそれを押しとどめ、
「御一別以来」
 ようやくそれだけ、絞りだすように言った。
 「そうだな」
 桂も、みじかく答えた。去年の春京都で別れて以来、よくふたたび生きてまみえたものだとか、藩(くに)をこのさきどうするだとか、話題はいくらでもあるのだが、桂もまた、今それらを口にする気にはならなかった。出石から帰ってこのかた、政事向の相談は頻繁に往復させている手紙で大抵間に合ってしまっているし、そうとすればあと話すことは去年の夏の大禍以来の艱苦の思い出ということになるのだが、その記憶はまだ、肉声をもって話すには生々しすぎた。ふさがりかけたかさぶたを自らやぶって血を流して見せるような気味のわるい自己憐憫の趣味は、桂にはない。
 畳のそそけだった粗末な座敷に、潮の音が満ちる。
 「すこし、波が荒いな」
 ひとりごちると、
 「満月が近いですからね」
 見えない海のほうへ首をめぐらして、高杉が和した。
 ひょっとすると海はこのまま時化るのではないかと、桂は思った。波がやや高いとはいえ、そう荒れそうにもない天気だが、どうも高杉を馬関に迎えたことで、天もまた激しく動くのではないかと――われながら埒もないことだが、そんな空想をした。
 (しかし、なにせこの男は)
 風雲そのもののように生まれついている。桂は高杉をそう見ていた。
 桂は桂で、ここ数年は――特に一昨年の堺町御門の変からこちらの日々は、平穏ではなかった。しかしそれは観じきってしまえば単にめぐりあわせというもので、高杉のように、生命それ自体が乱世の子として躍動しているのとはちがう。高杉のように生まれついてしまえば、とうてい畳の上では死ねまいし、幸いに命ある間も苦労は多かろう。ことに自分が出石に難を避けているあいだ、彼のくぐりぬけた艱難は並大抵のものではないと聞いている。桂の消息が知れてのち、高杉はそれについて甘ったれたような手紙を寄越したこともある。気の毒にも申し訳なくも思いながら、しかしそれ以上に桂には、高杉がまぶしくおもえてならなかった。
 そういう高杉と、一年すこしの時をへだてて、ふたたび向かいあっている。
 互いに忙しい身であったから、桂が帰国してからも、すれ違ってしばらく会わなかった。が、桂が何度目かの馬関出張を命ぜられ、折よく先に馬関へきて活動していた高杉を、今日こうしてその仮寓へたずねてきたのである。
 昨夏以来の変転で、二人は互いにすでに百万言の議論を尽くし、万斛の涙を流しきっていた。今はただ黙然と、互いにしかわからぬ胸懐を溶かした酒を、波の音を肴に飲むばかりである。
 座に出ていた銚子が、いつしかすべて空になった。
 「どれ」
 桂が立って宿の者を呼ぼうとすると、
 「桂さん」
 高杉がはじめて芯のとおった声を出した。どん、と役者が舞台を踏み鳴らすようなその声音にはっと振り返った桂の袖は、意外なほどの力で引き留められた。
 
 深く唇をかさね、吐息を貪りあいながら、互いの衣服を剥いでいく。高杉の指先がすこし冷たくて、ああ苦労したのだなと(妙な飛躍だが)桂はそっと彼の短い髪をかきなでた。その間も高杉の若い指先は、桂の体を隈なくまさぐってゆく。
 しばらく会わなかったとはいえ、桂の肌は高杉を忘れてはいなかった。が、今日の彼は、桂のよく知った彼とはちがう。普段の高杉は、若さと、おそらくは彼の性格ゆえの衒いがこんなときでも抜けないのか、巧みに手管を弄して桂を高めていった。それが今は、何の技巧もなく、ひたすら桂にふれている。肌をあわせるよろこびを、ただ一途に追っているような愛撫だった。そのくせ少年の余裕のない一本気さとはちがう、哀歓を知りつくした余韻が、交わす視線のあいだにけぶるようで、桂はその切なさに身をふるわせた。
 高杉の指が、桂の秘所にあてられる。そのまま中へ入ってくるその指の長さも、関節の形も、さすがにそうとはいいかねたが桂にはひどく懐かしく、甘酸っぱい感慨につよく彼の肩を抱きしめた。
 まず中指でそこを探るのが、高杉の癖だった。それから一度半ばまで引き抜いて、人差し指があとを追ってくる。そのころにはもう、桂の体はまちかねたような熱と潤いを帯びている。そろそろ、と思うのに、今日の高杉はいやに入念で、執拗に指での愛撫をくりかえした。
 「晋作……」
 目顔で訴えると、高杉の目が微笑のかたちにふわりと細められる。
 「ひさしぶりだからさ」
 よく馴らさないと、と彼は言った。それは本当に他愛のない言葉だったのだろう。が、桂は首筋に濡れた手でびたりとさわられたような気がした。
 
 高杉は、知るまい。
 去年七月、京都での大乱の後、桂の潜行はかならずしも捕吏の目を欺ききったわけではない。桂は汚辱をいとわず何にでも化けたが、それでも昨日までの三十六万九千石の大藩の高官が、市井のやくざ者の所作をすっかり真似られるものではなかった。否、真似られていようがいまいが、あの当時、京を出ようとする者はそれが本物の土方人足でも、一度はかならず幕吏の嫌疑をうけた。桂も何度となく危うい思いをし、口八丁手八丁で虎口をのがれた。
 幕吏は、それでよかった。
 いざとなれば斬り結ぶ覚悟も桂はしていた。かれらは職務に忠実である。役目とあらば取り調べ、嫌疑があれば引っ張っていくだけのことだった。捕縄か腰の刀か、万一のときはそのいずれかにかかるだけだった。
 問題は、傍観的な位置にあった他藩の士や、市井の連中である。
 あの頃京とその近郷では、他国へ逃れようとする長藩士が連日捕吏の網にかかり、あるいは捕らえられ、あるいは斬って捨てられていた。もっとも堂々と両刀をたばさんで出ていく馬鹿はないから、かれらは皆坊主や雲助に化けていたのだが、頭の剃りあとが妙に青かったり、臑が白かったりして、にわかづくりの偽者であることが露顕してしまっていた。つまり新造らしい町人や坊主、乞食は、大概長州人の変装と疑ってかかることができたのである。そしてそういう疑わしい者を密告して果たして長州人であれば、奉行所などからいくばくかの褒美がもらえた。長州に対してさほど同情的でなく、また人を売って銭にありつくことに廉恥をおぼえない庶人や、“朝敵”とかかわりたくない肚の他藩士もまた、天涯の孤児となった長州人にとっては恐るべき伏兵であった。そうして幕吏に数度疑われたことのある桂は、当然ながらかれらの目にも疑惑視せられることがあった。
 そういうときに、である。
 相手が町人や佐幕傾向の濃い藩の人間ならば、桂は風をくらって遁げてしまうのを上策としていた。問題は、今のところ表だって長州に肩入れはしていないものの、情勢次第では秋波を送ってこようか、という微妙な立場の藩、もしくは豪商である。うまくひきつけておけば、後来力添えをしてくれぬものでもあるまい。
 そういう桂の――落魄の長州人の思惑を、かれらはよくわかっていた。それで、品性陋劣な男のなかには、妙な目をして脅しをかけてくる手合いがあったのである。
 ――私は、知っている。
 連中は、暗に桂にそうにおわせてきた。おまえは長州人だろう、俺はそれを知っているぞ、と。そうして、
 ――お手前しだいです。
 今となっては金も力もない桂にそう言う。あとは察せよということなのだろう。金も力もない桂に差し出せるものといえば、もうひとつしかなかった。
 それを。
 桂はべつに悔いてはいない。そのときもさほどにためらいはしなかった。激昂して屠腹してみせるという手も、ないではなかった。しかし憤死などという優雅な真似を――実際それは優雅なわざだろう――していられるときではない。死ぬ覚悟はあるが、今はそのときではないと思った。他日かならず、生きてなすことがある。その志のために、桂はあっさりと、下卑た男たちに体をひらいた。特に苦しいことでもなかった。
 (どうということはない――)
 酷くされたわけでもなかった。実際そのとき結んだ関係のために、あとあと便宜をはかってくれた男もいた。悪い取引ではなかった。
 だから、それでよかったのに――――…………
 
 高杉の指が、ゆっくりと桂の粘膜をほぐしてゆく。
 なるべく傷つけないように、という高杉のやさしさに、桂はやわらかく抗おうとし、しかし結局かなわずにただ唇を噛んだ。
 あの流寓の日々、半ば強いられるかたちで経験した幾人かの男との媾合を、今の今まで自分はさほどのこととも思わなかったのに、こうして高杉に慈しまれてみると、やはりあれは陵辱だったのかとおもえて、そのことが桂の胸をきりきりと締めつけた。
 「桂さん」
 情慾にかすれた声が、低く耳朶を打つ。指が抜かれ、続いて訪れる衝撃と快楽の予感に、桂はそっと息をのんだ。
 「もう、会えないかと思った――」
 そう言いながら挿ってきた高杉の熱さに、桂は白い喉を反らせて啼いた。
 
 おもえば、抱かれるよろこびを初めて知ったのは、高杉によってだった。彼にはいえないことだが、男に穿たれる肉の悦びそのものは、早くから知っていた。しかしそれはいつもひどく後ろめたい、闇い感じのするものだった。
 そういうものなのだと思っていた。
 だから高杉に抱かせてほしいといわれたとき、桂は悲しかった。
 「このままでは」
 とまるで怒ったような顔で、高杉は言ったのだった。場所は、桜田の藩邸だったろう。花のおわりごろで、音もなく舞い落ちる薄紅の花弁に、あたりがこんもりとあたたかく湿る夜だった。
 花の見える縁を背にして、高杉は桂の袴の膝をつかんだ。
 「このままでは、僕は今にきっと気が狂って、あなたを殺してしまいそうです」
 唐突になにを言いだしたのかとおどろく桂に、口をはさむ隙をあたえず、彼はそのまままくしたてた。
「あなたはそれでもかまわないと言うかもしれないが……言うんでしょう、しかしあなたを殺せば僕だって生きてはいない。さあ、いかがです」
高杉の手が桂の膝を割り、内腿を撫でる。
(まさか)
息をのんで高杉を見ると、彼の眼はそれが戯れではないことを伝えていた。
「僕を惜しんでくれる気があるのなら、どうか黙って僕に抱かれてください」
高杉の真剣さが、いっそ悲壮におもえるほどだった。
桂がわずかに後ずさる。と、それ以上の距離を高杉は詰めてくる。高杉の瞳が燃えあがるようで、桂はついに逃げられないと思った。
彼を拒絶するどんな言葉も、誤魔化してしまう狡猾さも、その瞳を前に喪った。
ただ、
(なんだろう……)
桂自身にもわからない、饐えたにおいのするかなしみと、妙な息苦しさがあった。
「桂さん」
抱きしめられて、高杉の力強い温もりにおもわず溜息をつく。不覚にも泣き出しそうで、桂はこの瞬間のあらゆるかなしみに瞑目するように、そっとうなだれて、高杉の腕に身をゆだねた。
 
高杉の手が、せわしなく桂の肌を貪る。
平気だ、と思おうとした。今まで何人にもこうして抱かれてきた。今さら怖じるような無垢な体ではない。それなのになぜか、ふるえがとまらなかった。
高杉の肌が、吐息が、なにかひどくするどく感傷めいていて、そのくせゆったりとやわらかだった。
「桂さん……」
白い胸が小きざみに顫えているのが、彼にもつたわるのだろう。ひどくしないから、とささやいて、なだめるように、そこここに口づけを落とされる。
高杉の肩越しに、庭の桜が見える。宵闇のなかにぼうっと浮かぶ花が、その薄紅の色がばかにやさしく、高まってゆく熱のなかで、桂は切なくそれをながめた。
 
ゆっくりと、高杉に愛される。
桂の反応を見ながら奥まで挿し貫くと、彼は感に堪えたようすで深く溜息をつき、
「あんたの中、こんななんだ」
微笑みながら言った。
それからしばらく口を吸ったり、背中を撫でたりしていたが、やがて
「動きますよ」
とことわって腰をつかいはじめた。
内壁を擦られる感覚が、たまらない。淫楽に泥んだ桂の体はすぐに陥落し、高杉を締めつけながら甘い喘ぎを洩らした。
「いい、ですか……?」
ゆさぶられながら尋ねられて、桂の胸に甘ぐるしいかなしみがひろがる。答えないでいると、
「俺は、いいよ」
高杉の指先が、ほつれた髪をそっとかきなでた。
「すごくいい。あんた、あったかくて……嬉しい」
頬ずりしながら、桂の腰をしぼるように抱いた。声にならない感覚が体の芯を貫いて、桂は息をつめた。
「あんたを、好いている」
「晋作、」
叫ぶようにして名を呼んだ。ふしぎな疼きが体のなかを駆けめぐって、その未知の感覚に脳髄が霧のように白く砕けて散ってしまいそうだった。
(あったかくて……)
高杉の言葉を胸のうちで反芻する。
(好いて、)
途中まで思いおこして、もうそこで息ができなくなる。足りない空気をもとめて溺れるように、桂は背を波うたせて泣いた。
高杉を受けいれている体が、たまらなく嬉しかった。
そこに肉の悦楽があるのかどうか、桂にはもうよくわからない。いままで男たちに抱かれてたしかに感じてきたはずのそれが、ひどく遠いもののようにおもわれた。
抱きたいといわれて、過去のその誘いはいつも文字通り劣情としか感じなかったのに、高杉に求められたことが、いまは絶えいりそうなほど幸せだった。
それは、桂がまるで知らずにいた感覚だった。
自分を抱きたいと欲する相手の気持も、抱かれて嬉しいと思う自分の気持も、ともに愛おしく思った。そのことが、自分ながらひどく愕きだった。
抱かれて、幸せだった。
幸福のなかで桂は果て、あたたかな胸に頬をよせて眠った。
 
あの頃の高杉と、いまやっぱり自分を抱いている高杉とは、なにか変わったのだろうか。
ほんの青書生だった彼も、今は輿望あおぎみるような(無論逆に敵も多いが)天下の士である。藩政府を向こうに回しての先般の戦は、彼の顔つきまで精悍にしたようだった。
(ひるがえって、)
と桂は思う。自分はなにか、変わったのだろうか。自分をとりまく境涯はあれから何度も変転した。そのなかで年をかさねて、おそらくいささか老獪に、晦渋にふるまうことをおぼえた今の自分は、高杉がはじめて抱いたころの自分ではないのかもしれない。
「桂さん」
ぐっと腰を押しつけられて、桂はもの思いからさめた。
「何を考えてるんですか」
「いや……」
「ずるいな」
角度を変えて突かれて、おもわず悲鳴をあげる。
「俺はこうしてるとき、あんたのことしか考えてないのに」
「それは、」
俺だって、といおうとしたが、声にならなかった。
「好きですよ」
耳朶へそっと唇を押しあてて、高杉がささやく。いつかのようにやさしく、熱く――――……
「あんたが生きていて、よかった」
肚の底から低く絞りだすような声に、桂の胸が慄えた。
「よかった――――」
高杉は、泣いてはいない。しかし哀号以上の無限の情感をたたえたその声に、桂は骨を締めあげられるようなくるしみをおぼえ、彼のかわりに涙を流した。
「また、会えた……」
それ以上は言葉にならないというように、桂の口を吸い、深く貪った。桂もまた、いいしれぬ哀切のおもいと、滲むようなよろこびに盈たされて、自ら舌をからませ、高杉にこたえた。
(国でも京でも、有為の若者が毎日命を捨てている)
出石での無聊の日々を、その思いがずっと苛んだ。
(しかるに)
自分はなすところもなく荏苒ここで消日している。他日を期してと思っていたが、死ぬべきときは、もはや過ぎてしまったのではないか。
胸の灼けるような焦燥と、慚愧のおもいが桂を苦しめた。
それが―――――
『生きていてよかった』
高杉のことばを、永らえた命に対する無上の祝福として桂は聞いた。
(ああ、よかった)
と、はじめてそう思った。
天下が動く。国も変わる。ずいぶん人が死に、自分たちの境涯もうつりかわった。その変動のなかで、ただ高杉に抱かれている時間の幸福だけが――これほどふたしかなものでありながら――変わらなかった。
 
高杉が、しだいに自分を追いあげてゆく。
予想していたよりも大きく深くあたえられる感覚をうけとめきれず、無意識に逃れようとする。その腰を、高杉にしっかりと捕らえられた。
ああ、いつから。
彼の手はこれほど逞しくなっていたのだろう。その手にどれほどの艱苦を受けとめ、また切り拓いてきたのだろう。
しかしそれをねぎらう言葉も、謝する表情も見つからず、桂はただ、彼の腕のなかで身悶えた。
「桂さん」
情慾が濡れて滴るような声で、高杉がささやく。
「ここ……」
と、桂が恐れて――待ちかねていた一点を突いた。びくりと四肢がひきつり、ひとりでに背が跳ねる。
「ここ、相変わらず、すごいね」
「や、……あ、」
「ちょっと当てただけで……」
「やめ、」
「桂さん」
 高杉の生命が、自分の中で奔騰している。それだけでも桂の肌は歓びに濡れているのに、弱い場所を狙われて、熱くほぐれた淫肉が、子供が泣きむせぶように顫える。髪の毛から爪先まで、全身で高杉の熱情を感じていた。
以前の桂ならばどうにかこらえたが、今夜はもう、そんな技巧もおぼつかない。
「晋作……、」
彼の唇に自分の唇を寄せようとして、届かないまま、白い喉をふるわせて果てた。
脳髄が、甘く痺れている。
しかし吐精後のあの重い倦怠は、まだやってこない。桂は肩で激しく息をしながら、まだ硬く保ったままの高杉の顔を見上げた。彼の額から汗が落ちて、その滴を浴びるたび、体の中に切ない疼きが走った。
「す、まない、」
自分だけが達したことを詫びると、滲んだ視界のなかで、高杉がふっと目をほそめた。
「いいよ」
彼の声が、空腹に飲んだ水のように、肚に沁みる。
「いいよ、もっと……もっといってよ」
さっき求めて届かなかった高杉の唇が、深くしっとりとあたえられる。
「あんたの気をやる姿、すごくきれいで、ぞくぞくする」
そう言って高杉は、ふたたび桂の中で動きだした。
「あ、まだ……!」
「だから、いいよ。いっても」
「晋作、」
自分が乱れているのかどうかも、桂にはわからなかった。ただ高杉にしがみつき、その温もりを貪った。風雲のなかでいつ絶たれるともしらず、しかし激しく燃焼している彼の生命と、今だけはこうして熔けあってしまうかもしれない錯覚をあじわっていることが、それは小さなことかもしれないが、桂には気の遠くなるほどの幸福におもわれた。
何度も名前を呼び、涙と汗に汚れた顔を彼に晒して達した。そのまま絶え入りそうになるのを、起こされてはまた繋がり、何度も何度も精を散らした。
 
「はい、おしまい」
何枚めかの懐紙を丸めて投げすてると、高杉はかるく桂の唇を吸った。ほつれた鬢の毛を耳にかける手に、桂は気だるく目をとじた。
桂の意識があやしくなり、高杉がとうとう労れたところで、長い情交はおわった。桂はそのまま眠ってしまおうかと思ったのに、高杉が承知しなかった。
「これ、ちゃんとしないといけないんでしょう」
ようやく解放されたはずの場所に、無遠慮に指が潜りこんでくる。
「……ぁ、」
桂はすでに言葉を紡ぐ気力もなく、わずかに首を振って抵抗を示したが、無論そんなことで高杉の暴虐がやむはずもなかった。
「桂さんは何にもしなくていいから」
実に愉しそうに、彼はその作業に耽った。中に放ったものをその指がすべてかきだしてしまうまでのあいだ、桂は腕で顔を覆い、唇を噛んで堪えた。
何度されても慣れなかった。
はじめ高杉がそれをしたいと言いだしたとき、桂はちぎれるほどに首を振って拒絶した。しまいには泣いてやめてくれと懇願するのを、高杉はゆったりと体を抱き、口づけながらささやいた。
「桂さんは、どうして俺にゆるしてくれたんですか……?」
問われた意味がわからずに、ただ彼を見返すと、
「俺は、あなたが恋しいから欲しいと言ったし、抱いたんです」
だから、と高杉はそこで気恥ずかしげに桂の瞼に手をやって目を閉じさせ、その上に唇をおしあてた。闇の中で、彼の微笑が匂うようだった。
「あんたの中でいい思いをして、それから体を離して、……それで終わりじゃいやだよ」
だから、させてよ、と高杉は言う。言われたことがあまりに意外で、桂はどうしていいのかわからなかった。わからないまま彼の指に蹂躙されて、自分ながらおきどころのない感情の昂ぶりに――それは情慾とはべつの場所でおこっているのだった――なすすべなくすすり泣いた。
誰と枕を交わした場合でも、体を繋げる前にはこうして指をおなじところに受けた。もちろん、高杉ともそうだった。その愛撫にはなにほどの辛いこともないのに、情事のあとでこうして手当をうけることが、どうしてこんなにも羞ずかしいのだろう。
高杉だけが、それをすると言い、実際に施した。
桂はいつも、泣きながらそれにしたがった。その涙は嫌悪や悔しさのそれではなかったが、そういう思い以上に桂の胸を塞ぎ、
(苦しい――――)
体をつらぬくような歎きを桂にあたえた。
今日も桂は、それに堪えた。
長い合歓のときをすごして、溢れるほどに高杉の精を瀉がれている。ためにその作業はいつもより長びき、桂は何度かゆるしを乞うて、哀しい喘ぎを洩らした。
(晋作)
触れられている肌が、切ない。この哀しみをおぼえてしまった自分を、この先一体どうしたらいいのだろう。桂は心底、それをもてあます気がした。
「もう、いいよ」
指が抜かれ、汗に濡れて乱れた髪をあやすように撫でられる。この作業のあと、高杉はこれほど桂を泣かせておきながら、絶対に詫びない。一言も謝ったり、それにちかい言葉すらかけたことがない。
彼にはおそらく、桂の涙の正体がわかっているのだろう。
哀しみがとまらずに、桂は高杉の唇をもとめた。すぐにそれはあたえられ、深く結ばれる。互いの息がつきるのではないかという頃、高杉はふたたび頭を撫でながら、ゆっくりと桂から離れた。
桂はすでに恍惚の境にあって、ぐったりと体を投げだしている。
「桂さん」
高杉はもう、常の声にもどっていた。
「風呂を焚かせましょうか」
桂の唇を貪りながら、彼はそんなことにまで頭をめぐらせていたらしい。
桂はぼんやりと薄目をあけて、しばらく高杉の言葉を考えたあと(そうしなければ意味がわからないところまで、その意識は濁っていた)、かすかに首を振った。
「もう、眠りたい……」
肩を抱いている高杉の手が、あたたかかった。
「眠ってしまいそうなんだ……」
「うん」
と、高杉は答えた。
「眠りなよ。疲れたろう」
「晋作」
朧ろになっている眼のかわりに、彼の手に指をからめる。
「起きたら……」
と、それは、ぼんやりと霞がかっている頭の奥で、しかし桂が心から願ったことだった。
「また、抱いてくれるか」
高杉の表情が、桂の目にはすでにその輪郭も茫漠として、よく見えない。
「体は」
とだけ、ぶっきらぼうに問い返された。
「平気だ」
「うん……」
それっきり、高杉は黙っている。桂の指を愛撫するようにゆるく動いていた手がとまっていた。
「どうした」
「いや、だって、」
ぎゅっと手を握られる。
「初めてじゃありませんか、桂さんから誘ってくれたの」
「そうだったかな」
「そうですよ」
晋作、とつぶやいた声ごと、強く抱きしめられた。
「誘っても、いいんだな……?」
いよいよ眠りに落ちそうな恍惚のなかから、最後にそれだけたしかめたくて、たどたどしい舌で呼びかけた。
「あたりまえでしょう」
「そうか……」
高杉の声がなんだか怒っているようで、癇性な男だ、と思いながら、桂は眠りに身をゆだねた。
「そうなんだな……」
ほとんど声にならずにつぶやいた唇に、彼の唇がかさねられるのを、なにかあたたかいものに手をとられて仙界へのぼってゆくように感じた。
 
淡いまどろみのなかで、何度か高杉の声を聞いた。
夢か、あるいは波の音かと思ったが、耳にふれる息で、それがほんとうに彼のささやきなのだと知った。桂が寝ていると思って、それでもその夢寐のあいだになにごとかを聞かせる気なのか、ひそやかに語りかけているらしい。
あまりに低い声で、それはほとんど聞きとれなかった。だが、桂にはその意味がよくわかるような気がした。
すぐにでももう一度、高杉に抱かれたかった。同時に、このまま二度と醒めないほど眠りこんでしまいたかった。
波の音が、岸壁を洗いとるように強く、高く響いている。満月の夜は、時化るだろうか。嵐になれば、どこにも行けない。そのどこにも行けない体を、またこうして高杉の腕のなかにあずけてもいいのだろうか。
いい、と、さっき彼は言った。それでもためらっている自分を、彼は笑うだろうか。
(お前でなければ、たやすいのにな――――)
閉じている瞼のふちから涙がこぼれそうで、桂は寝返りをうつふりをして、そっと高杉から顔をそむけた。

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【2012/09/14 20:42 】 | よみもの
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