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【2026/04/05 05:57 】 |
大久保×木戸
更新速度が必死すぎて気持ち悪いですね☆

書き上げてそのまま忘れてました。
ひたすらなさっているだけの話です。
ほかの人とできないことをしてみよう、とかなんかそんな
ろくでもない動機から生まれたシロモノでした。
これこれの間に入る話、という設定です。

以下、よみものでございます。


『狂瀾』
 寝台の軋む音が好きだと木戸は言った。
 固い敷綿の下の発条が、男二人の肉体が搏ちあうたびに悲鳴をあげる。
「帰ってからはもうこれがないのだと思うと」
一台買って家へ――別邸のほうにでも送りたいものだと木戸は言うが、彼の妻には何と説明する気だろう。第一、帰朝後にゆっくり木戸の家で睦みあうような、そんな暇が自分たちにゆるされているものかどうか。
が、大久保はそれはいわず、ただ眼のはしだけで穏やかに微笑った。
その間も、寝台はにぶい音を立てつづけている。
なるほどそれは、蒲団の上の営みでは聞くことのない音であろう。しかしわざわざ安くもない買い物をしてまで得るほどの音色ではないような気がする。それよりも繋がった部分の濡れた音や、何より木戸の息遣いのほうが、よほど大久保の官能を刺戟する。
が、木戸は発条の啼く音に陶然と眼を閉じ、
「あなたの、重さと、力が、」
聞こえるから好きなのだと、絶え入るように囁く。自分を組み敷いている男の体重と、揺さぶられている力の強さ。肌にあたえられると同時に、鼓膜を通じて知らされるそれらの実感が、木戸にはひどく、いいらしい。
しかし、今寝台を鳴らしている重さと力は大久保のものではなく、むしろ木戸のそれであろう。なぜなら今彼は大久保の膝に跨り、肩に手を置いて、自分から腰を上下させているのである。
この姿勢で交わることを望んだのも木戸だった。
「横になったほうがお楽でしょう」
と大久保は言ったが、「こうしたいんです」と木戸がねだるので、それにしたがった。もとより大久保に異存はない。どんなふうに交わろうとも、木戸の体は放埒に男を求め、高みを目指して奔騰した。その熱さと締めつけられる甘い痛みを知ってしまえば、彼にさからうことなどできそうになかった。
(――そう、さからうまい)
大久保はそうきめている。閨の中ではできうるかぎり、木戸の要求にこたえることにしていた。それが結局は、大久保にこのうえない悦楽をもたらしてくれる。
「ん…………」
木戸が溜息を洩らす。体勢的な限界で、いつもより浅いところまでしか入れない。木戸はあるいはもどかしいのではないかと思ったが、大久保が背中に指を這わせてやると、ふだんそう念入りには触れられない場所に享ける感覚が快かったのか、木戸の中がきゅうきゅうと締まった。
髪の間に手を入れ、彼の頭をすこしかたむけさせる。それと悟った彼のほうから、深く唇をあわせてきた。
「……やはり、あなたでなくては」
絡めていた舌を一度引き、大久保の唇の上で彼は囁いた。
「そうですか」
「ええ。口を吸うときにね、」
こう、と首をかしげてみせる。
「すぐにあなたに触れられるでしょう」
そう言って啄むように大久保の唇をかすめた。
「すぐに、とは?」
「あなたは丈がおありでいらっしゃる。相手が小兵だとこうはまいりませんよ。腰が痛くて」
「ああ……」
要するに、屈まなくても口づけられるのがいいというのだろう。
「それで、私とこうなさりたかったのですか」
唇のはしを舐めてやると、彼は嬉しそうに頷いた。残念ですね、と大久保はそこで大仰に溜息をついてやる。
「こちらはそれほどお気に召しませんでしたか」
腰を捕らえ、強く突き上げると、木戸は首を左右に振りながら、喉をそらせて啼いた。
「わ、ざわざ言うまでもないかと、思っただけ、です」
「本当に?」
白い喉に甘く歯を立てる。
「あ……、も、好き……です、あなたの……」
「そうおっしゃるわりには、こんなものをつけておいでになる」
「あ……っ」
大久保の爪が掻いた木戸の肌には、石榴色の痣があった。
「これは、先夜、あなたが……」
「私が?」
「帰って、しまわれたでしょう」
ほう、と大久保は眼を細めた。そういえばそんなことがあった。折悪しく風邪を引いていたあの夜、木戸がどうしてもと言うので途中まで戯れてみたはいいが、やはり悪寒が甚だしく、火照った木戸の体を置いて自室へ戻ったのだった。あんなにまで高まったあと、木戸はどうしたかと思っていたが、抱かれ損ねの始末を引き受けてくれる男がいるとは知らなかった。
「私は本当に調子が悪かったのです」
下から木戸を突き上げる。膝に彼を載せているこの体勢では動きにくいが、詰られることに弱い彼はたやすく反応する。
「存じております。ですから、自分で……何とか、ぁ、しようと……」
「御自分でこんなところに痕はつけられないでしょう」
「それ、は、」
「夜半から熱が上がって、なかなか難儀をしました。それなのにあなたは、あんまりななさりようではありませんか」
「す、みませ……、」
「どなたです」
射るように眼を覗き込んで訊いてやる。木戸の体がびくりと顫えた。
「え……」
「どなたに抱かれました?」
両手で木戸の頬を挟み、目をあわせたまま、唇を舐め上げた。木戸は腰を引き、遁れようとするが、そのくせ彼の中は大久保に熱く絡みついていた。唇を噛んでやると、粘膜がきつく顫え、木戸の舌が大久保のそれを迎えた。
「誤魔化そうとなさるのですか」
「ここは誤魔化されてくださらなければ」
木戸が薄く笑う。
「いいじゃありませんか。あなたはどうせ私が誘わなければ抱いてくださらないんですから」
「断られたらと思うと怖いのですよ。私は臆病ですから」
「それをほかの連中に聞かせてごらんなさい。茶の沸かしすぎで臍から焼け死にますよ」
「物騒なことをおっしゃる」
もう一度、大久保は木戸の肌に散らされた何者かの痕を掻いた。
といって大久保には、その男が少しも憎くはない。実際木戸の言ったように、誘われなければ彼に触れることのない大久保だった。
(――第一、なぜ)
なぜ木戸が自分に抱かれたがるのか、未だに大久保にはよくわからない。それでも、木戸に求められることは決して嫌いではなかった。こうして彼が自分を誘っている間は、彼は冠を挂けてどこかへ行ってしまうようなことはない。無論それは、大久保に抱かれるためにという意味ではない。どういうわけかわからないが、木戸は自分が官を離れられないことの理由を、大久保に求めようとしているらしいところがあった。その最も具体的で、かつ生臭い羈絆のしるしが、大久保との交情であるらしい。
(迷惑な)
と、木戸のその見えざる遁辞に対してはそう思う気持もないではないが、一方で、少なくとも木戸が抱いて欲しいとねだってくるうちは、彼がその職責を捨てる気はないのだと、一応のめやすにはなった。それはそのまま、大久保に安堵と自信をあたえた。そして何よりも、木戸の体で知った快楽は、ちょっと形容しがたいほどのものがあった。
――ずいぶん、手練れのようだ。
初めて肌をかさねた夜に、大久保は木戸をそう観察した。こういう道には天稟がものをいうことは彼も知っているが、しかし木戸の体のねっとりと深い貪婪さは、単にそれだけではない、彼がこれまでに男の下で越えてきた夜の多さを大久保に告げていた。
だから彼に自分のほかにも情人があるだろうとは、その初めの夜から察していた。しかし、その男は多分、留守政府にいるのではなかったか。発途後の木戸のようす――特に閨のしぐさでそんなふうに考えていたから、今日木戸の肌に痣を見つけたときは、おやと思った。
(一行の中にもいたのか)
あんな状態の木戸を抱いたその男はおそらく、木戸と自分のことを知っただろう。
(誰か――)
と大久保はたださえ険のある目つきをさらにけわしくする。その男と木戸の関係などはどうでもいいが、つまらぬことを喋られたりしてはたまらない。
「どなたです」
食い下がって尋ねると、木戸は苦笑して首を振った。
「彼は先のある男ですからね」
「ほう、お若い?」
「どうか穿鑿しないでくださいよ。たった一度のことをあれこれ言われては気の毒ですから」
「たった一度――」
木戸の言葉を反芻して、大久保はおもわず皮肉な顔で鼻を鳴らした。
「一度で済むとお思いなんですか」
その方は、お若いのでしょう? そう尋ねると、木戸は一瞬目をまるくした。
「どうかなさいましたか」
「ああ、いえ……」
目を伏せて、
「以前おなじことを言われたものですから」
「その方に?」
「いいえ」
微笑む木戸の表情が、何かやわらかなものにけぶる。ひたとあてられた視線を逃れるように、乱れた髪をそっと掻き上げたその挙措は、大久保の知らない淡あわとした懐かしみに盈ちていた。
(困った人だ)
と他人事のように観察する。
(そういう男がいながら――)
自分に抱いてほしいとせがみに来るのだろうか。おまけに、一度きりだという男にまで。
「いいじゃありませんか」
大久保は何も言わないのに、木戸は大久保の手を取り、指先を音を立てて吸った。
「私はどこへも参りませんよ。あなたが抱いてくださるかぎり」
「ですから、私はいつでもお待ちしております」
「それでも、誘ってはくださらない」
木戸の歯が、中指の関節のあたりをかり、と噛む。いつも彼の体の奥で、彼の悦ぶ場所を剔るその指先を、熱い舌が愛おしげに舐る。
「こんなにも、あなたをお慕いしておりますのに」
美しい、不実な溜息をからめて、木戸は淫らに大久保を睨んだ。
「嬉しいことを言ってくださる」
「安っぽい嘘は興醒めですよ」
「そうおっしゃるならまず、あなたから上手に騙してくださらなくては」
 「私は嘘など申しませんよ」
 いつでも、真実あなたに身を捧げておりますのに――。木戸の紅い唇がぬらりと光る。彼はさきほどまでの表情を、ほそめた目の奥にひっこめて刃物のように笑い、それを受けた大久保もまたよく似た顔で笑いかえした。
 
 「あっ、あ、大久保さ、」
 濡れた声をあげて、大久保の上で木戸が弾む。大きくしなるその背を支え、目の前で固く膨らんでいる乳首を強く吸った。
 「や、引っ張……っ」
 引っ張ってはいやだと言いながら、大久保のその愛撫に、木戸の中はそこだけが別の生き物のように蠢き、烈しい悦びを訴えた。口で捕らえたそこを、舌と歯を使って捻るようにしながら、もう一方のおなじ場所を指で押し潰してやると、木戸は切なげにすすり泣いた。
 「あぁ、もう……」
 急速に淫楽の梯(きざはし)を駆け昇る木戸は、しかしその悦びのために、却って極点まで慾を追いきれず、達しようとしては何度も大久保の上に滑り落ちた。
 「ぅん……」
 繰り返し自分の体に裏切られ、木戸が悲しそうに呻く。
 「無理ですよ」
 と大久保は彼の乳首を含んだまま言った。その微かな振動にさえ、木戸は甘い溜息を洩らす。
 「今のままでは、どうも私も……」
 大久保も、完全に木戸を征服できない今の体勢がもどかしかった。
 「もう、いいでしょう……?」
 見上げる木戸の顔は、白く靄がかかりそうなほどに熱を帯びて、しっとりと汗に濡れている。舐めればきっと彼の濃い情欲の味がするだろう。その顔が頷いたかどうか、大久保にはたしかめる余裕がなかった。
 「必ず達(い)かせてさしあげますから」
 低く、彼にしては早口にそう宣して、大久保は木戸の上体をおさえこみ、寝台に押しつけた。
 「ああ……ッ」
 繋がったままの状態で押し倒されて、衝撃に木戸の体がこわばる。ぎちりと締めつけられる圧迫感に大久保は一瞬顔をしかめたが、鋭く息を詰めると、木戸の腰を捕らえなおして深く穿った。
 「ひ……っ」
 たださえ狭いその部分の、さらにきつい奥を責められて、木戸は身を慄わせながら目を見ひらき、やがて深く眉根を寄せた。
 「苦しいですか」
 大久保が問うと、木戸は黙って目を閉じて、あたえられる感覚に身を委ねた。その間も、甘く瑞々しい肉が、絞るように大久保を喰む。ややあって木戸は、
 「……少し」
目を閉じたまま答えた。眉間に刻まれた皺が、大久保が揺さぶるごとに緩んでいく。
「我慢、できますね」
頬を撫でてやりながら問うと、小さく頷いた。それを合図に、さらに大きく腰を使う。木戸が噛み締めた唇の隙間から細い啼き声を洩らす。なだめるように微笑みかけてやると、彼は熱に溶かされた表情を一瞬引っ込め、諦めたように薄く笑った。その瞳の奥の醒めた光を、大久保もまた冷ややかに受けとめる。そうして見つめ合ったまま、指先だけは優しく、彼の目尻を濡らしている涙をぬぐう。
実際のところ、彼を思いやる気などない。木戸は体をひらくとききまって一度は苦しそうな顔をしたが、苦しいならなぜ抱かれに来るのか。
(訊いたところで答えるまいが)
なぜ誘ったのか、とは最初の夜に尋ねた。そのとき彼はやっぱり今のような一点醒めたものを残した顔で、惚れたからだとぬけぬけと答えた。今日も何やら似たようなことを言っていた。そうしてどこまでもはぐらかしぬくつもりなのだろう。
ならば大久保に、彼を思いやらねばならない理由はないだろう。それでいつも大久保は、慾を刺激されるままに木戸の体を愉しみ、木戸もまた純粋な――くだらぬ夾雑物がないという意味で――肉の悦びに、深い満足の表情を示した。
「……はぁ、あ、……ん……っ」
今日もまた大久保の体の下で、木戸の官能がうち顫える。慾に熟れきった彼の体は、大久保のきつい律動にもたやすく順応し、さらなる愉悦をもとめて疾りだしていた。
「いけそうですね」
何度かの交歓で憶えた彼の弱点を、緩急をつけて穿ってやる。大久保を包んでいる肉が甘やかに蠕動し、奥のほうでひき絞るようにその間隙を狭くした。
「あ、あ、あ、あ……」
白い喉がゆるやかに反り、木戸の手足が痙攣する。ぎり、と背中を掻かれる痛みを感じる。と、同時に木戸の中がきつく締まり、彼の慾が弾けた。絡みつく肉にねだられるように、大久保もまた、彼の中にたっぷりと瀉ぎ込んでいた。
 
蒲団が肌に擦れる感触と、つづいてするりと入り込んできた夜気に、大久保は目を覚ました。
手をのばすと木戸の体はもうそこにはなく、かわりに闇の中にぼうっと白い影が浮かんでいた。それが襯衣(シャツ)を肩から引っかけた木戸の姿であることを、もう何度かこうして彼と交歓のときをもった大久保は知っている。木戸は、まだ完全には覚めていないのだろう、いくぶんふらつきながら、ふしぎな吐息の音を洩らした。欠伸をしたらしい。それが抑えぎみのつぶれた音だったのは、寝ている(と木戸が信じているであろう)大久保を慮ったのだろうか。
大久保は蒲団の中で寝巻の襟をかきあわせ、音を立てずに寝台を辷り出ると、重たげに足をひきずっている木戸の背中に、
「どちらへ?」
低く声をかけた。
まるでそうされることを知っていたかのように、ゆっくりと木戸がふりかえる。
「起こしてしまいましたか」
交歓の名残でもあろう、淡くけぶるような気怠さをまとって、彼の眼が微笑んでいる。
「湯をお借りしようと思ったのです」
「そういうときはお声をかけてくださらなければ」
「お寝みかと思いましたので」
不躾な真似をして、と木戸が詫びる。が、その表情には、口調の慇懃さに似合わない、挑むような色が露わに泛べられていた。
「べつに風呂などいくら使っていただいてもかまいませんが」
あなた、と大久保はわざと沈んだ声音で、うつむいたまま木戸の腕をとった。
「洗い流してしまわれるおつもりでしたか?」
単に汗のことだけを言ったのではないと、目線の位置で示す。木戸は婉然と眼をほそめてそれを受けると、そっと襯衣の裾を指先でなぞった。
「それは、湯を浴びます以上は……」
「感心できませんね」
大久保は眉根を寄せ、大仰に溜息をついた。
「私に断りなく洗ってしまわれるのは、無法というものでしょう。それの“オーナーシップ”は私にあるはずですよ」
「“オーナーシップ”ね」
木戸が苦笑する。下腹のあたりに手をあてて、
「ですが私にくださった以上は、オーナーシップも私に移っているのじゃありませんか」
「だとしても、一言挨拶があってもいいでしょう」
「それは法の外のことだと思いますが」
なるほど、と木戸はかるく握った手の甲を、口許に押しあてる。大久保の不意打ちについ緩んだらしいその表情が、またもとの鋭さを取りもどしていた。
「法より情誼に拠るべし、というわけですか。あなたがおっしゃると面白い」
「笑わせようと思ったわけではありませんよ」
「では真面目におっしゃった?」
「どうでしょうか」
木戸のいったとおり、何も彼と戯れたいわけではない。といってまさかこんな馬鹿げたことを、真面目に言う大久保でもなかった。ただ、抱き合ってしまったあとの時間を、木戸とこうして――そう、験しあいたかったのだ。
(つまらぬ智慧をつかうことだ)
大久保が溜息を――今度は心底から――つくと、木戸がすくいあげるようにその手をとり、
「ではあらためてうかがいますが」
大久保の指先を目の上に掲げ、恭しく言ったその唇の、咲きこぼれるような色の淫らさ。
「洗ってきてもよろしいでしょうか」
あなたの、と、木戸のもう一方の手が、襯衣の裾から潜りこんで、自分のそのあたりを撫でている。大久保は捕らえられた手であべこべに木戸の手を引き寄せると、今はもう何を語る気も失せた口へ運び、木戸が悲鳴をあげるほど強く歯を立てた。
 
木戸が寝台へ戻ろうとするのを許さず、抱きしめたまま壁に押しつけ、片脚を抱え上げる。愕いた顔で見上げる木戸の、なにかもの問いたげな眼差しを、大久保は皮一枚だけの微笑で受け流した。
既に猛った己の先を押しあてると、木戸は眼を閉じ、わずかに息を呑む。開いた脚の間から、流れ落ちるものがあるのがわかった。一瞬おこった体の顫えがやんだのを合図に、ゆっくりと、しかしためらいなく侵入した。
「……っ、ん」
大久保の首に回された腕に力が入る。床を踏みしめている木戸の片脚が、全身を支える角度を探すように何度か踵を擦った。
「大丈夫ですよ」
言いながら、ゆるやかに動き出す。一度大久保の慾を浴びたそこは、二度目の蹂躙を、濡れた音と熱くやわらかな撓みとで迎えた。木戸の腰に手を添え、体重を壁にあずけられるようにして、繋がった部分で下から押し上げてやると、頭を壁に擦りつけながら、首を振って啼いた。
「た、立って、られな……、」
「では、こうしましょう」
残った脚の膝裏に手を入れ、背を壁に押しつけながら、既に抱えている脚と同じ角度まで持ち上げた。
「ひ……っ!」
こぼれおちそうなほどに目を見ひらいて、木戸が体をこわばらせる。
「や、……無、理です、降ろしてくださ、」
両膝を抱え上げられて、木戸の体は完全に床から浮いていた。壁と、抱きついた大久保の肩と、あとは奥深くを穿っているそれだけが、木戸の体重を支えている。
「大丈夫ですよ。ちゃんと支えておりますから」
「こ、怖い……」
「これ以上、あなたに恐れることがおありですか」
私とこうなって、まだそのうえ。木戸の顔の横に口を寄せ、耳もとでささやくと、彼ははっと身を竦ませてこちらを見た。怒ったようなその顔は、しかしよく見ると、およそこの世にあるかぎりの悲しみを凝固させた、冷たい氷の破片のようにもおもえた。
が、それも一瞬のことだった。かれはすぐにその表情を掻き消し、あとは全身でやわらかく大久保にしなだれかかってきた。
「しっかりつかまっていてくださいね」
そう言うと、木戸の唇が美しい微笑を刻む。その形をうつしとるように吸いあげると、不安定さに顫えていた木戸の中が、嬉しげに締まった。
「誰かと、こんなふうになさったことは?」
「いいえ」
甘えるように――それはまったくふりに違いないのだが――首を振る。
「あなたが初めてです」
「それは光栄です。――ご感想はいかがですか」
「まだ、よく……」
わかりません、と木戸が言いおわらないうちに、大久保は律動を開始した。
「ふ……っ、んぁ、あ、」
慣れない体勢が不安なのか、しがみつく木戸の腕が、必要以上の力で大久保の肩を縛める。そうしながらも彼は、大久保の動きに応えて自ら腰を振っていた。
「ん……」
きつく閉じられた眼の長い睫毛の先に、今このとき見せるにはどうにも清らかすぎる色の滴が、小さく珠を成して揺れていた。
何度か体をゆすられているうちに、それが零れて彼の肌を滑り落ちていったその先では、皓い歯にぎゅっと噛みしめられた唇が、痛々しく紅くゆがんでいた。
体の苦痛はほとんどないだろう。木戸のそこはやわらかく綻んで、さらに深い場所へ大久保を誘っていた。それでも、彼はやはり、辛そうな顔をする。痛みというよりもなにか悔しげな、苦々しげなものをその美しい眉宇に漂わせて。
(回をかさねるごとに、それが増すようではないか)
大久保はふと、寒々しい、滑稽な感じにとらわれる。
惚れたの何のといいながら、最初の夜から木戸はずっと、絶頂のその瞬間でさえも、冷えたやるせなさに似たものを抱えつづけているように見えた。不審ではあったが、気に掛けてやる義理もないことだと、大久保はそれを見ぬふりをして彼を抱いてきた。木戸の体はの味はごく甘美であったし、一点馴染まないものを匿しているらしい彼のようすにも、すぐに慣れた。木戸は大久保の前ではあくまでもおだやかに、平淡にふるまっていた。
それが変化したのは、例の全権委任状一件以来だろう。
一時は腹を切る切らぬというところまで紛糾した日本でのそれこれを経て、再び太平洋を渡り、およそ四ヶ月ぶりに彼と顔をあわせてみると、その態度はあきらかに前とちがっていた。
条約改正は、たしかに頓挫した。
『少壮客気の連中の口車に乗った』
木戸はその慚愧と後悔に苛立っており、同時にその少壮連中を急速に近づけていた大久保に対して、なにごとかのちりちりした念が萌したようだった。が、その点は大久保にも言い分がある。ありながらしかし、両者は決して表立っては議論することなく、ただなんとなく日に日に疎隔を生じ、ついにはひとがささやきあうまでに、その関係は微妙なものになった。
(――それでも、こうして抱かれに来るのだ)
昼間の木戸はといえば、最小限の挨拶以外はめったに大久保と口もきかず、傍へも寄らず、時たま何か談じねばならないことがあっても終始実にいまいましそうに渋面をつくっている。そのくせ、どうした加減なのか、ある夜ふいとこうして大久保に肌を寄せてくる。
(何を考えているのか)
大久保は呆れながらも、決して木戸の心根を探ろうとは思わない。
(無益なことだ)
と、彼にはとうに答えが出ている。木戸がどう思っていようが、抱かれたがる理由が何であろうが、大久保にはどうでもいい。むしろ彼のほうから関係をもとめてくるのは好都合というものだった。
(それなら、それで)
逃がさぬようにせずばなるまい。
「あ、あ……深い……」
「おつらいですか」
「いい……」
木戸はいつでもたやすく悦びの色を見せる。それが芝居でないのは抱いている大久保にはわかっていた。が、また反面、自らもとめて深く感じようとしていることも、大久保はよく知っていた。
(それでいい)
求めて、さらに感興を得て。苦しみながら、木戸が彼自身をそう駆り立ててゆくさまは、大久保には決してわるい眺めではなかった。だからこの次もきっと彼が求めてくるように、忘れられない快楽をその体にあたえねばならない。
それで大久保は、いつの夜も木戸の体をさまざまに試した。
彼のまだ知らないであろう角度、気づいていないであろう場所。それらをいちいち探しあて、刺し貫くような劇しさと、撫でるようなやさしさで彼に教えてやった。そうして、彼は大久保を拒めなくなる。
それは、彼を自分のがわに引きとめておくための――否、むしろ彼が彼自身に枷をはめ、自分で苛むようすを視るための儀式だった。
「あなたは、ほんとうに麗しくていらっしゃる」
恭しい腰つきで、大久保は木戸の奥を苛んだ。
「あ……、わ、私……が?」
「ええ。こうしているときのあなたは、目映いほどですよ」
「あなた、が……そんなことを、おっしゃるとは……」
「私だって人並みに美醜くらいはわかるつもりですよ」
美しいですよ、と、耳朶に舌を這わせながらもう一度囁いてやると、大久保につかまったまま、木戸は折れそうなほどに背をしならせて悦びの音色を洩らした。彼の昂ぶりが滴となって溢れ出で、その先端と触れている大久保の腹を濡らす。
「あぁ、いい……。いい、大久保さん……」
木戸の声も、そのまま滴り落ちそうなほどに濡れている。大久保を銜えこんでいる粘膜が、劇しく吸い上げるように締まり、また緩んでは、大久保の周りをねっとりと這いずるように蠢く。
(そう、美しい――)
歓楽に溺れようとして、いつも最後の一波に身を浸しきれない木戸が。
その、韜晦の衣を剥きさってしまえば、実にとるに足りないであろう色の苦悩が。
この営みの底の部分にわだかまるどうしようもないつまらなさに、やるせなく身悶えるその姿が。
それでも抱かれて悦ぶ体が、声が。
「あなたはずっとそうして、美しくおいでくださいね」
顎をとらえて口を吸い、下唇を噛んだ。汗に濡れた背をかき撫でてやりながら、
「そうあってくださるかぎり、私は――――」
唇をあわせたまま、あとはひくく囁く。瞬間、木戸の体が弾かれたように慄え、見ひらかれた瞳が凍えそうに揺れて、大久保を見た。その眼に、凪いだ微笑で応えてやる。
「あ…………」
木戸がうろたえたのは、ほんの一瞬だったろう。次の瞬間には彼はもう淫蕩な笑みをうかべ、肌に滲んだ汗までも弾ませながら、大久保にしがみついて腰を振っていた。
「もっと、ぁん……っ、もっ、と……!」
ねだる声の鋭さに、大久保は狂おしく熱を高め、彼を潰れそうなほど壁に押しつけて剔った。木戸の悲鳴を快く聞きながら、彼の中に放った精のあたたかさだけは、われながらひどくやさしいと思った。

拍手[36回]

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【2012/06/24 21:50 】 | よみもの
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